相談者　59歳 男性

　私は関西に住む会社員です。もうすぐ定年を迎えます。
　子供は長男長女共に結婚しており、孫も３人います。長い間私を支えてきてくれた妻とも大きな問題もなくここまで連れ添ってきました。
　とても幸せな恵まれた人生だと思っています。
　ただ一つ、ずっと前から何年も私の心の中に引っかかっている事があります。
　それは私の実の母の事。
　母は20歳の時に私を産みました。父は私が生まれてすぐ、家を出て行ったそうです。詳しい理由は分かりませんが、あとになって育ての親から聞いた話によると、父は女性問題が絶えなかったらしく、それが原因だったのではないかということでした。
　そして私が２歳になる少し前、母に再婚の話が持ち上がりました。お見合いだったらしく、母も相手の男性もお互いを気に入り、結婚が決まったそうです。
　当初その男性は、子連れ、つまり私も一緒でよいと承諾してくれていたのですが、初婚だったために周りの親族から猛反対を受け、子連れでは結婚できないということになり、私は養子に出されました。
　その夫婦には子供がおらず、私のことを本当の子供のように可愛がってくれました。預けられたのが２歳前でしたから、私には母と別れた記憶はありません。しかし、優しい女の人が私の髪の毛を切ってくれた記憶はあります。それが育ての母ではなかったことだけは、幼心に感じていました。
　自分に、本当の母親が別にいることを聞かされたのは15歳の時です。育ててくれた両親は、実の母のことを悪くは言いませんでしたが、思春期の私には耐え難い事実でした。本当の両親だと信じていた父母は育ての親で、実の母は別の男性と結婚するために自分を捨てたのです。色んな想いと葛藤がありました…
　それでも、今まで我が子のように大事に育ててくれた両親への感謝の気持ちと、その両親の期待に応えなければという一心で勉強に励み、実の母のことは忘れるよう努めました。育ての親に大学まで出してもらい、大手の某食品メーカーに就職することができました。
　結婚して子供を授かり、子供の可愛さ愛おしさ有難さを知ったとき、恨みや疑問で一杯だった実母への想いが少し変わったのを覚えています。
　それから、35年余りが経ちました。実の母と別れてからは約60年…今まで妻に実母のことは黙っていましたが、定年を目前に控え、人生の節目を迎えようとしている今だからこそ話せるような気がしました。
　妻は黙って聞いてくれました。すると「お母さんに会ってみたら？」と言い出しました。
　私はそんなこと考えもしなかったので驚きましたし、今さら会う気はないと断りました。
　しかし、数日ずっとそのことを考えていると、自分の中にいつかは実の母に会ってみたい、という気持ちが、常にどこかにあったことに気づかされました。
　私は妻に自分の正直な気持ちと、今まで抱いてきた実の母への様々な想いを伝えました。驚くことに　妻は、既に古い親戚関係に連絡し、私の実母の所在を調べ始めていたのです。ただ、調べた結果、所在は突き止められませんでした。
妻の提案で探偵社を訪ね、母の所在と、生きているならどんな暮らしぶりなのかを調査してもらうことにしました。
　もし、生きているとすれば80歳。会えるのだろうか？
（つづく）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

総合探偵社Ｆ．Ｒ．Ｃ．　鈴木教夫
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