景気の悪化は人を凶暴にしてしまう。2009年の中洲は、物騒な話が後を絶たなかった。ホストクラブにおける同僚ホストへの集団暴行。同じテナントビル内で起きた、キャバクラ嬢の取り合いによるスカウトマン同士の喧嘩など。中でも極めつけは、ソープランド従業員が８名逮捕されたという、『集団監禁致傷事件』だ。以下、福岡県警博多署の発表を要約する。

　事件は、2009年８月20日の朝、中洲１丁目のソープランド待合室で発生。当時従業員であった男性に対し、鉄棒などで頭部や背中を数回殴打する暴行を加えたのち、同待合室、自動車の車内、従業員寮と場所を変えつつ約10日にわたり監禁。被害者男性に全治１ヵ月の治療を要する全身打撲などの傷害を負わせた。被疑者６人を逮捕後、引続き被疑者らの経営する関連店舗、事務所の計８カ所に対して一斉捜索を実施。博多署及び捜査第一課員総勢約110人が従事し、多数の証拠品などを押収した。現在、事件の原因等について、徹底して捜査中。さらに、９月17日と18日にそれぞれ一人ずつ被疑者を逮捕した。（被疑者は計８人。事件の原因については現在のところ未発表。）

　事件から３ヵ月が経ち、ほとぼりが冷めたのか。中洲では、この事件についてまことしやかな噂が流れていた。複数の噂を重ね合わせると、事の顛末は以下の通りである。

　発端は、ソープランドのＡ店とＢ店の間で起こった従業員同士の喧嘩である。両店とも、ここ数年で中洲における店舗数を増やし続けてきたが、商売敵ながらも両店は良好な関係を保っていた。しかし、不況に伴う客の減少が雰囲気を一変させる。経営者の知らぬところで、従業員同士が険悪になっていた。そして８月上旬、喧嘩が起きた。直接の原因は人気のあるソープ嬢の取り合いである。

　慌てたのは両店の経営者。たまたま両店とも経営者が不在にしている時に騒動が起きたのである。ソープランドは法律上「客の入浴のお手伝いをする場所（特殊浴場）」として営業許可を与えられている。店内で行われている実際の行為は違法となる部分がある。つまり、ソープランドはいつでも警察から取締を受ける立場にあるのだ。Ａ店の経営者は、喧嘩が続くことで警察の捜査が拡大することを心配した。そして彼は、「アイツは短気なところがある。喧嘩の原因はヤツじゃないか？」と、最近雇った従業員に疑いの目を向ける。そう、監禁され集団暴行を受けた被害者は、この従業員だ。

　被害者は、喧嘩の原因について自白を強要され、抵抗したため監禁され暴行が続けられた。深夜、中洲１丁目に男の悲鳴が響き渡った。ついに、恐怖を感じた近隣の店舗が通報し、博多署の一斉捜索、被疑者８人の逮捕に至ったというわけである。

　「１丁目は中洲の火薬庫」。そんな自虐的な冗談を言う中洲関係者がいた。景気の悪さが人を不機嫌にしているのか、昔では当たり前だった健全なご近所付き合いが希薄になっているという。どの店も生き残るために必死となっている今、小競り合いは後を絶たない。

（つづく）

長丘 萬月（ながおか まんげつ）
　1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。

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