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政界インサイドレポート

牙をむいた検察権力 最高権力者「小沢一郎」は逮捕されるのか(上)
政界インサイドレポート
2010年1月16日 11:02

 ここまでくると「異常」ともいえる捜査である。
 東京地検特捜部は小沢一郎・民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」などへの強制捜査に続いて、小沢氏の元秘書、石川知裕・民主党代議士ら新旧秘書3人の逮捕に踏み切った。
 1月18日からの通常国会召集を目前にひかえ、民主党大会の前日に現職代議士を逮捕するからには、相当な容疑事実が必要なはずだ。それなのに、特捜部は石川氏の秘書時代の「政治資金の不記載」という形式犯の容疑で、しかも、任意の事情聴取に応じているにもかかわらず、事実上、議員生命を奪うやりかたをした。
 自らも収賄事件で公判中(最高裁)の鈴木宗男・代議士は、「石川氏は逃亡の恐れもなく、家宅捜索を受けて証拠隠滅の恐れもない。なぜ身柄をとるのか。これは鳩山政権つぶしだ」と指摘したが、的外れな捜査批判ではない。
 国民から選挙で選ばれた国会議員には憲法で「不逮捕特権」が与えられている。
現行犯の場合を除き、国会会期中に現職議員を逮捕するには司法当局が内閣に逮捕許諾請求を行い、当局が議運委員会秘密会に捜査状況を報告し、そこで逮捕が欠かせないと判断されれば所属する院の本会議で逮捕許諾請求決議案が可決され、ようやく逮捕が認められる。
 過去の逮捕許諾は、田中角栄・元首相のロッキード事件や中村喜四郎・元建設省のゼネコン汚職など、贈収賄や背任事件のような重要犯罪のケースがほとんどだ。
「国会が始まれば、この程度の容疑では最高検は逮捕許諾請求には踏み込めなかっただろう。捜査の手の内を国会にさらすわけにもいかない。だから特捜部は不逮捕特権が及ぶ国会召集の前に身柄を取るしかなかった」(検察関係者)
 とはいえ、現職議員を特捜部の判断だけで逮捕することはできない。「国会召集前の石川逮捕」は、ギリギリの捜査手法として樋渡利秋・検事総長ら最高検の了承を得ていることは間違いない。


◆焦点の「4億円闇献金」疑惑

 では、捜査は一体、どこまで進んでいるのだろうか。
 焦点は小沢氏の資金管理団体「陸山会」が04年10月に購入した世田谷の秘書寮が建つ「4億円の土地」の購入資金の解明にある。
 特捜部の見立ては以下のようなものだ。
〈小沢氏の地元・岩手県で建設中の胆沢ダムの下請け会社、水谷建設、M建設、Y建設、M組の4社から各社1億円ずつ、合計4億円が小沢氏(陸山会)側に献金された。それが土地購入の原資となった〉
 事実とすれば4億円闇献金疑惑である。
 捜査の突破口となったのは昨年8月。特捜部は水谷建設の裏金づくりを担っていたとされる大阪の貿易会社経営者の聴取で裏金の存在をつかむと、昨年9月から10月にかけて別の脱税事件で収監中の水谷建設元会長・水谷功受刑者を事情聴取し、水谷建設が「04年10月」と「05年4月」の2回、5,000万円ずつ1億円を小沢氏側に渡したという供述を得ている。
 ただし、カネを運んだのは水谷氏ではなく、水谷建設の現職幹部で、受け取ったのは1回目が石川氏、2回目は石川氏とともに逮捕状が出された大久保隆規・第一秘書とされる。
 胆沢ダムの下請け4社に4億円の闇献金を指示したのが、元請の鹿島建設だったのではないかというのが特捜部が描いている事件の全体像であり、そのために鹿島建設本社や東北支店に家宅捜査をかけたわけである。
 もっとも、特捜部がそうした資金の流れをすべて詰めきっているわけではないようだ。石川氏は水谷側からの献金の授受を全面否認しているし、家宅捜索でも闇献金の存在を示す有力な物証は出ていないという見方が強い。
「闇献金で起訴に持ち込むには4億円すべての出所を特定できなければ公判維持は難しい。現段階である程度の見通しを得ているのは水谷建設からの1回目の5,000万円だけ。2回目の5,000万円と他の3社からの3億円はまだ全然固められていない。特捜部はあんなに前のめりになって本当に大丈夫なのか」
 検察幹部の1人はそう漏らしている。
 だから、特捜部の強制捜査も石川氏らの逮捕も、容疑は同じ政治資金規正法違反ながら悪質な「闇献金」ではなく、土地代金の4億円の収入を政治資金収支報告書に記載していなかったという「不記載」にとどまっている。
 さらにいえば、特捜部が捜査の先に小沢氏本人の立件を視野に入れているとしても、ハードルは高く、展望はまだほとんど立っていないといっていい。

(つづく)

【千早 正成】


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