<結婚詐欺のようなプロポーズ>
コンピュータを手にする少しだけ前に、私生活でも大きな出会いを経験する。昭和57年、行きつけのダンスホール「スターダスト」。ここである女性を目にする。黒木にはない知性を感じさせる女性だった。職業は教員。最初は友人として見ていたが、いつしか恋愛に発展したという。
「自分には知恵はあったが、知識はありませんでした。結婚をするなら、自分にはない『学』がある女性がよかったのです」
黒木は結婚を意識し、昭和58年、ついに彼女にプロポーズする。おかしなプロポーズだった。
「結婚したい。ビルの連帯保証人になってくれ」
まるで結婚詐欺だが、黒木はこう思っていたのだ。今は自分の仕事でお金になっているが、この先どうなるか分からない。結婚をするなら責任がある。確実な「もの」を手元に置いておきたい。コンサルタントをしているから、土地の活用には自信があった。駅南の土地を黒木が購入し、ビルの建設費用を借り入れる。その際の連帯保証人になってくれ、と申し出たのだ。金額は4,000万円。彼女は判を押してくれた。黒木流の『約束手形』である。
彼女は「連帯保証人って何?印鑑証明ってどういうもの?」と言っていた。黒木はひとつひとつ説明をしたが、本当に分かっているのかと心配だったという。あるとき、何気なく黒木が辞書を見ると、連帯保証のところに赤ペンでアンダーラインが引いてあったのを発見する。ああ、あのとき分かっていて判を押してくれたんだ。自分を信用してくれていたのだと、黒木は感謝の念で胸がいっぱいになった。
こうして黒木は、ビルのオーナーになったのである。これにより、コンサルタントとしての説得力と自信がより増した。そのすぐ後、昭和62年に結婚となり、今も仲よく同じ屋根の下で暮らしている。
人生の伴侶に出会い、いよいよ身を固めるときに黒木はコンピュータを手にした。仕事量は倍増する。先述のとおり、顧客が100人を数えるほどになると、収入も倍々ゲームで増えていった。公団の1LDKに居を移し、その一室を事務所として活用していた。顧客がひきも切らずやってくる。昭和59年11月から昭和62年3月まで、工務店との両立生活が続いた。年商も3,000万から4,000万へ、はては1億の大台に乗るほどになった。
当初の考えを実行に移すときが近づいていた。独立である。
【柳 茂嘉】
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