糸島市長　松本嶺男　氏　vs　フリーアナウンサー　中村もとき　氏

　2010年１月１日、旧前原市、旧志摩町、旧二丈町の１市２町が合併し、「糸島市」が誕生した。都市・福岡に隣接しながらも豊かな自然資源に恵まれている一方で、九州大学のキャンパスが移転、さらに最近では、水素や半導体の研究施設が次々と設置されるなど、先端科学技術の集積が進み、全国的にも注目を集めている。今回は、新生・糸島市の初代市長である松本嶺男氏に、約半世紀の間、ラジオで人気アナウンサーとして活躍し、10年10月に引退された中村もとき氏がインタビューを行なった。地元・福岡をこよなく愛し、風景カメラマンとしても一流の腕を持つ中村氏にとって、松本市長の語る「地域振興への取り組み」や「今後の発展の課題」はどう映るのだろうか。

　中村もとき氏（以下、中村）　市政が発足して、ちょうど１年ですね。これまで振り返っていかがですか。

　松本嶺男市長（以下、松本市長）　そうですね、合併して名実ともにひとつのまちになるには、大きく「一元化」と「一体化」があると思っています。「一元化」とは、主に制度のことで、たとえば下水道料金や土地改良の負担の仕方、あるいは公民館の使用の仕方などの違いをまとめるのが「一元化」。これはしっかりと進めることができました。
　ただ、市民が本当に「一体化」していくのは簡単ではありません。もともと旧前原市や志摩町、二丈町というくくりで何十年と歴史を積み重ねてきたわけですから、さあこれからは何もかもひとつで、という方が無理です。これにはもっと時間が必要でしょう。
　ただ、「糸島市」という名称は定着しつつあるように思います。もともと糸島半島、糸島郡、糸島高校、糸島農協などの名称がありましたからね。それでも市の名称を決めるときには、2000年前には中国の古文書「魏志倭人伝」にも登場する伊都国があった地域ですから、「伊都」という呼び名にこだわった向きもありました。

　中村　奇しくも今、「伊都」という話が出たのですが、この気候の温暖さはホントに弥生時代から文化が花開いたという地域ですが、糸島地域のまちの特性をどのように捉えていらっしゃいますか。

　松本市長　「過去・現在・これから」という３つに分けてお話させていただくと、先ほど少し触れましたように、ここは2000年前には伊都国・斯馬国（しまこく）がアジアのゲートウェイ、日本の玄関口として、日本各地に先駆けて栄えた地域です。
　次に「現在」ですが、ひと言で言えば、都会の便利さと田舎の暮らしやすさを兼ね備えたのが「わが糸島市」だと思っています。その便利さは、道路交通、鉄道など、福岡市の都心部まで30分で往来できる交通環境によってもたらされています。このおかげで市の勤労者の半分以上は福岡市で働いていますし、その恩恵は救命救急にも及びます。つまり自前で大規模な救急救命施設を設けなくても、福岡市内の九大病院、福大病院、済生会、こども病院などを頼りにすることができる。われわれは、そういう便利さを享受できる地域にいます。
　それでいてなおかつ、豊かな自然と美しい景観が多く残っています。これは、農業をはじめとする第１次産業が盛んであることが大きく寄与しています。私どもは「農業の多面的機能」といっていますが、農業従事者が頑張って野菜やお米を作りつづけているからこそ、豊かな自然環境や田園風景が保たれているわけです。
　最後に「これから」を考えると、やはり九州大学に期待しています。現在で１万人、10年後には２万人の学生や教職員が糸島半島にやってきます。そのうちの１割の方々に住んでもらっても2,000人の人口増加が期待されますから、できれば２割ぐらいは住んでほしいと思っています。それから、福岡県が半導体と水素関連の施設をつくってくれていますが、そういった将来への発展の起爆剤が大きく開花しつつあります。そういう可能性もある地域です。

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