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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (62)
経済小説
2011年2月18日 11:06

「会社は厳しいと?」

 早朝に娘を保育園に預けて東京に出張したが、そのようなことがあったので、帰宅は夜の10時過ぎとなった。ただ、会社から家まで歩いて20分、タクシーなら5分という近さであり、激務のなか、職住接近の環境はありがたく感じた。

帰宅は夜の10時過ぎとなった。ただ、会社から家まで... 自宅は、2年前に購入した中古マンションであった。そこそこ高級な立地の物件で、築20年という古さであったが、バブル時代の仕様で二丁タイル張りの外観は高級感があった。室内も、天井が高く、私は気に入っていた。何しろ、占有面積が90m2以上あり、その半分を広いLDKが占めていた。それまで、安い賃貸暮らしを決め込んできたのも、少しいい家に住みたかったからだ。家具なども、以前より北欧風モダンで統一するつもりで揃えつつあったので、気持ちのいい空間が出来上がっていた。相場より少し安く買ったことと、株式相場のいい時期に投資信託を取り崩して頭金に充てたことで、月々のローンは、家賃程度で済んでいた。
 この家を購入したときの年収は、今よりも高かった。しかし、所詮私は、市場変動から自由でない開発会社の役員であり、景気のいいときもあれば悪いときもあると思われたため、投資信託のキャピタルゲインこそ、思い切って頭金に投入したものの、ローンは、家賃程度に抑えたのだった。

 そして今、私は会社の倒産を仕掛けようとしていた。

 住宅以外には借金もなく、当面の生活費の蓄えはあった。まあ数カ月間を辛抱して、その後は新興企業に転職すれば家計は維持できるだろうと思った。住宅を購入した頃は、好景気で新築物件への誘惑もあったが、安い中古物件にしておいてよかった、と心から思った。

「ただいま」
 私は、疲れきって自宅に帰りついた。
 私は、帰宅するときには、もう一度気を引き締めることを常としていた。一家の家計を支える者として、家族に無用な不安を与えることは避けたかったかたである。
「おかえり」
 家内は、娘を寝かしつけたあとテレビを見ていた。家内は、私と同じ年で、医療系の専門職として病院にパートで勤めていた。
「会社は、厳しいと?」
 と家内。
「具体的なことはいえないけれど、いよいよ厳しいね」
「倒産すると?」
「わからないけど、まあ何とかなるよ」
「健康保険のこととか、大丈夫かしら?」
 家内は、健康保険のことを心配していた。家内には腰痛やヘルニアの持病があり、定期的な通院が必要だった。また、娘も、時々風邪を引いたりしていた。そこで家内は、万一のときのために健康保険は会社の保険(くみあい健保)を任意継続するのか、国民健康保険に入るのか、などをシミュレーションしていたようだ。
 さらに家内は心配性で「自宅を買わなければよかった」とか「クルマを1台にするべき」などといろいろ言ってきた。

「まあ、クルマのこともそのうち考えるさ」
「そのうちって、今が大変なのに」
「今は、会社のことで踏ん張らないといけない」
「今日もニュースで不動産会社が倒産したって言ってたし、私の不動産投資信託もものすごいマイナスよ」
「そうだろうねえ。ぼくも自分の証券口座をもうずっと見てないよ。でも、経済というのは人類が始まって以来、ずーっといい悪いを繰り返してるんだよ。それは日経平均でもニューヨークでもそうだよ」
「でも、こんなに下がったら戻らないんじゃない?」
「経済には、波があって、いいときも悪いときもあると」
「この家も、売っちゃったらいいんじゃない?掃除も大変だし」
「まあ、よほど悪い状態が続けばそれもいいけど、多少悪い時期もあると分かったうえで買ったんだから、今はまだそういうことを考えるときじゃない」

 家内は、経済にはうといが、計算は得意で、家計の税金や保険の対策については細かく調べてくれていた。配偶者控除の枠の問題、家内が出産で離職したときの社会保険の取り扱いなどについては、私は基本的に家内の結論に従っていた。
 その家内も、いろいろなところで不動産業界の苦境のことを聞かれるので、心配が募っていたようである。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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