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トリアス久山物語『夢の始終』(7)~開発のプロ・本藤憲司
経済小説
2011年8月15日 07:00

<開発のプロ>

 開発は、特殊な仕事であり、真のプロフェッショナルでないと成果は上げられない。久山町の場合、その立役者は本藤憲司である。

 本藤は、現在83歳。開発業務委託業とでもいえばいいだろうか。地域開発にともなう開発許可の取得、地権者取りまとめなどの仕事を請け負ってきた。プランナーズ21という法人名でトリアスの一角に事務所を構えている。 

 本藤は北九州市小倉の出身。戦時中、宮崎県の旧制高校在学中に陸軍に召集された。そこでは玉音放送を聞くとともに皆で自決しよう、という話になったが、気を取り直して復員した。
 終戦後は、小松製作所の子会社である小松建設に勤め、福岡で活躍した。わが国は高度成長期を迎え、売上は倍々ゲームで伸び、本藤も当初年商7億円だった会社を100億円まで伸ばした。
 やがて、パワーショベルやブルドーザーといった機械を売るなかで土建業界に人脈が広がり、社業のかたわら宅地造成に取り組むようになった。

 その発端は、長崎県長与町での、建機の試運転用地の購入である。

やがて、パワーショベルやブルドーザーといった機械を売るなかで... もともと不動産について詳しいわけではなかった本藤は、新開発した建機のテストのために用地を購入することを命じられた。そこで奔走した末、適当と考えて契約したのが広さ20万坪の長与の山林だった。
 ところが、その山林は建機のテストには使えないことがわかり、せっかく購入した土地が無駄になることになった。

 そこで、本藤は、素人ながら、長崎県の担当部局と渡り合いながら、この土地を宅地として造成していった。丘陵を切りひらいて宅地を造成すると、廃土をどうするかが問題となるが、これは海の埋立に使い、でき上がった埋立地20ヘクタールを町に寄付することもした。住宅地として整備する段になって、生活に不可欠な水道水が確保できず困った。ところが地下水では県の許可が得られないという問題に直面した。
 そこで本藤は、対応策を考えた。横を流れる川の近くに穴を掘り、湧き出した水を、「これは地下水ではなく伏流水です」といって切り抜けた。当時は、法律に伏流水などという概念はなかったのだ。

 このように体当たりの奔走の末、本藤はこの土地を造成したのち、石油ショックの直前、伊藤忠に売り抜け、小松建設はその利益で一部上場を果たした。

 その後、会社を辞めるが、小松からは社長直命の裏仕事を引き受けるようになった。その社長は、小松を国際的企業に育てた経営陣の三羽烏といわれたなかのひとりだった。
 社長からは、社内で発言力を持つためには役員会にも出てもらわなければならないから、と取締役への就任を要請された。しかし、東大や一橋といった有名国立大学出身者が幅を利かせるエリート企業のなかには私のような野人は似つかわしくないから、といって断った。

 結果的に、小松からは年に2回、報酬をもらい、フリーランスの立場で、いろいろな裏仕事に取り組んだ。フリーとはいいながら、その収入は、常務並みであったという。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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