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経済小説

トリアス久山物語『夢の始終』(6)~軌道修正
経済小説
2011年8月12日 07:00

<国家的プロジェクトには積極協力>

 やがて町を、新幹線や高速道路も通ったが、その交渉方式は、地権者組合を結成して、その代表者に全権を委任し、そのなかの各地主の土地の譲渡価格は、売却対象面積を立地や環境によりランク付けすることによって計算し、個別の折衝は認めない、という強権的なやり方であった。
 
 それだけではない、町を二分する主要県道を拡幅するに当たり、県道の両側に幅3メートルの町有地を設けてしまった。およそ不動産開発をするのに、主要道路に接しない土地では話にならない。ところが久山町の場合は、主要道路に接した用地を確保するには、必ず道路と出入りするために町有地の払い下げを受けることが必要となった。このような手法により町長が了承しない開発は一切できない、ということになったのである。

 このような傍目には強権的なやり方によって、久山町の土地政策は、明確な理念を、強力な手法によって断行できる状態となった。

 周囲の町村が、福岡市のベッドタウンとして乱開発されていった。
久山町 しかし久山町は、福岡市に隣接する立地にも係らず、山紫水明の土地でありつづけた。これは、もちろん町全域を市街化調整区域に指定したとことの成果である。しかし、単に開発を拒否したのではなく、新幹線や高速道路といった重要なプロジェクトの場合は、町民とりわけ地権者が小早川にすべてを委ねるため、あっという間に用地買収がまとまった。新幹線では、九州内の工事区間のなかでももっとも杭打ちが早かったほどだ。
 そこには、乱開発は抑え込むが、国家的なプロジェクトであれば率先して協力せねばならない、という小早川の哲学があった。

<農家の老後のために軌道修正>

 そして、強権的との批判に対しても、「町民の大半は私の政策を支持しているのだから」と言い、ひるむところがなかった。

 小早川の土地政策は、単に久山町を山紫水明の農村として、その環境を守ろう、というだけではなかった。久山町の地権者も農業就業人口の減少と高齢化が予測されていた。このままいけば、90年代には、そろそろ農地を賃貸に出して悠々自適に暮らしたいという希望が主流を占めてくるだろうと。

 このような時代背景を考慮し、小早川は、「健康」と「交流」というテーマから戦略を練った。7期28年の任期の最後の頃である。これまで、開発に対しては原則拒否であった。しかし、農家が高齢化し、必ずしも田畑をそのままに保存するだけでは町民の期待に応えられない。
 そこで健康田園都市財団という、「健康」「交流」の実行を担当する法人を設立し、スポーツやリゾートそれに国際交流といったキーワードで久山町らしい開発のあり方を研究し始めた。ここに九州の主要企業が、ビジネスチャンスを求めて集まってきた。九州で頭角を現していた中内ダイエーも、そのメンバーとして加入していた。

 「健康」のほうは、64年以来の町政を通じて、健康づくりに取り組み、その手ごたえを感じていた。
 健康保険の問題は80年代の前半にはすでに米、国鉄と並んで3Kといわれ、国家財政の3大課題として注目を集めていたが、21世紀には、健康関連産業が隆盛を極めるだろうと予見でき、またそうでなければ健康保険がパンクするだろうと考えられた。
そこで国交正常化後、まだ間もないころに中国の医学大学より専門家を招き、人体の持つ自己治癒能力をいかに引き出していくか、といった観点から勉強会を開催した。このような健康づくりの拠点づくりも行なった。小早川は、温泉を掘削し、滞在型リゾート施設の開発を志向した。これがのちのレイクサイド久山などの施設となる。

 「交流」については、やはり21世紀型の流通・小売り施設を設けることを目指し、現在のトリアスのあるエリアを「国際流通ゾーン」と位置づけて、その実現を目指そうとしたのである。

(つづく)
【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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