この研究は30年前に富永錘一郎氏によって進められ、1995年には青山学院大学工学部寺崎和男教授の協力を得て、学術実験のデータを確立している。約16年前の話だ。すぐに富永氏によって特許申請が行なわれたが、許可の遅れ、申請過程における富永氏の死去が重なり、一度は頓挫した。新たにその遺志を受け継いだ稲澤進、稲澤仁両氏による再申請が09年1月30日に行なわれ、その結果、昨年(2010年)3月12日に特許を得た。時代の要請からか、この異例の速さはとても興味深い。
<"エマルジョン燃料"という妖怪!>
「エマルジョン燃料」とは、灯油や重油軽油などと水を攪拌し乳化させた液体燃料の総称。この固有名詞は、関連業界の者にとって別に目新しいものではない。20年も30年も前から、各国で研究が続けられている。一般的には、"燃焼効率がそのままで、燃料費のコスト削減が図れ、さらにはCO2削減が可能"という夢のような燃料のイメージを持たれている。ところが、これほど需要環境が整っている今でも、際だった話題として浮上することもなく、普及も遅れている。
なぜメジャーになりきれなかったのか、また現在でもなれていないのか―。とても簡単に言えば、マスメディアが石油連盟、電力会社など利害が絡む既存のエネルギー団体の圧力に屈し、故意に取り上げてこなかったことが原因だ。
地球温暖化が世界的に叫ばれている現在、エマルジョン燃料は、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子性物質)の発生を抑え、内燃機関の排出ガスがもたらす環境負荷を低減させる効果が期待できると再評価されてきている。
ただし、従来のエマルジョン燃料は、燃焼時間の経過とともに油水分離が始まってしまい、安定性に問題があったこともたしかだ。また、触媒として大量の乳化剤を必要とするため、経済性の面で課題があり、多くが研究段階のレベルにあったことも事実だ。
<油水分離しない革新的な"同化燃料">
このたび、ヴェスタエナジー(株)(神奈川県横浜市)が取得した特許(技術・製品)は、従来の"エマルジョン燃料"とは一線を画す、次世代の革新的燃料だ。同社はあえて自社の製品を"同化燃料"と呼び、"エマルジョン燃料ではない"ことを強調する。"オオカミ少年"のようになってしまった、エマルジョン燃料というイメージを嫌っているのだろう。
同社の製品が、従来のエマルジョン燃料と大きく一線を画すのは、「油中水滴型乳化剤」という新たな乳化剤の開発に成功した点である。これは界面活性剤を使用せず、食品添加物によって形態安定性と均一性を保持するもの。保管時(静的安定)には数年間の形態安定性・均一性が保持され、遠心分離などによる虐待時(動的安定)も同様に保持されることが確認されている。
経済性の点でも、従来は水・油に対して25%のエマルジョン燃料が必要であったが、新しい同社の乳化剤を使うと0.25%の添加で済むため、コスト面でも大きく優位性が保たれている。
<船主、造船会社の救世主になれるか>
「マルポール(MARPOL)条約」とは、船舶の航行や事故による海洋汚染を防止することを目的として、規制物資の投棄・排出の禁止、通報義務、その手続きについて規定するための国際条約とその議定書のことだ。「通称:海洋汚染防止条約」として有名である。
今年7月11~15日に英国・ロンドンで開催された、「第62回IMO(国際海事機関)海洋環境保護委員会(MEPC62)」にて、船舶からのCO2排出規制の強制化に関する「マルポール(MARPOL)付属書VI」の改正が採択された。CO2排出削減の大幅な強化だ。
さらに、海上輸送分野においては「IMO(国際海事機関)規制」により、2016年実施の三次規制案で、指定海域においてNOxを現行規制値より80%削減しなければならないことが決まっている。
今、世界各国の船主、造船会社は、このCO2やNOx削減に必死で対応している。日本でも国土交通省、日本船主協会、日本造船工業会を中心に、海事関係団体などはその対応に大急ぎだ。各種セミナーが頻繁に開かれている。
船舶からのCO2排出削減による地球温暖化防止やNOx排出削減による環境負荷低減は、国際社会にとって重要な課題である。とくに日本は海運・造船大国であるため、その技術面での貢献が世界から期待されている。
この海運、造船業界が今最も注目している新技術の1つが、ヴェスタエナジー社の次世代燃料「"同化燃料"(NON-POLLU ALPHAX)」と言われている。同社では、日本海事検定協会の分析検定を受けて、国内の研究機関と連携、研究を進めている。このCO2排出やNOx削減の環境問題で日本がイニシアティブを取ることができれば、それは日本の造船会社の商機にもつながっていくのだ。世界の船主、造船会社の救世主となれるかもしれない。
いわゆるエマルジョン燃料に対する造船業界の関心は以前から高く、日本郵船グループ、川崎汽船グループなど大手の船会社、造船会社では、開発および実験を繰り返してきている。ただし、決め手を欠いていたのだ。そこに出現したのが、革新的な"同化燃料"である。
| (後) ≫
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら