食材の購入をスーパーマーケットで担える時代となり40年以上が経過する。それまで食卓を支えていた肉屋、魚屋、八百屋は単独では事業を維持することができず、スーパーマーケットのテナントに入るか、または廃業を選択せざるをえない時代があった。しかし、このような時代のなかでも先代から受け継いだのれんを守り、八百屋業一本で勝負を掛ける人たちもいる。
<野菜のイロハを知り尽くした3代目>
今年4月にオープンしたばかりの木の葉モール橋本。サンリブと128の専門店でひときわにぎわいをみせるこのモールで、威勢の良い掛け声が飛び交うスペースがある。サンリブ前のオープンスペースに全国各地のこだわりの野菜と果物を販売する「やおや植木商店」だ。
「おねえさん、このブロッコリーはみなさんに喜んでいただきたいから、JA筑紫よりたくさん仕入れてきました。2つで100円でよかばい。いっぱい買って。茎を取って葉の部分は冷凍保存できるけんね。もうちょっとしたら高くなるけん、今がお買い得ばい」
「白菜は外側の葉っぱから食べたらおいしくなかよ。まずは半分に切って芯を残してなかをくりぬいて食べるのがよか。くりぬいたらすぐ白菜をくっつけ合わせ元の形にして新聞紙で包んで、立てた状態で冷蔵庫に入れると。そうすれば芯が白菜の外側の葉を甘~くなるごつ努力ばするけん、自然と外側の葉も甘くなるとよ」
「しめじは袋詰めじゃないほうがよか。もし袋詰めのば買ったら、袋から出して、食べる前に少し天日干しばすればいい。そしたら元気になってシャキシャキ感が増すとよ」
店に訪れたお客さんたちは店主の話を熱心に聞き入り、次々と買い物かごに入れていく。店主の名は植木宏徳さん。福岡県大川市出身の八百屋の3代目で、この道36年の野菜を知りに知り尽くした男だ。植木さんの「今日は白菜が安かばーい。買っていかんね」という威勢の良い掛け声が場内に響くと、平日の昼間であるのにも関わらず、一人また一人と人が集まってくる。気がつけばレジには長蛇の列。1日あたりの延べで平日が最低900人、多い時では1,400~1,500人の集客があり、土日祝日ともなれば延べ4,000人もの集客がある日も。多い時は30分待ち、1時間待ちということもざらにあるそうだ。
たった19.6坪のオープンスペースに綺麗に陳列された野菜と果物たち。減農薬野菜や有機野菜などが中心だが、取材に訪れた12月7日の午前中、同店で売られていた大根は1本80円。長ネギ100円と特段高いというものでもなく、むしろ安いという印象を受ける。「価値のあるものを安くお売りしています」という植木さんは、毎日午前1時に起き、市場に行って、自分の目で確かめた野菜だけを買い付けている。午前3時にはトラックで店舗まで運ぶのが日課だ。目利きした野菜と果実のみを販売する植木さんは、お客に対して野菜の歴史やおいしい食べ方などの話題も交える。すると自然と周囲に輪ができて話が弾む。ただ売るだけではない、一人ひとりとのコミュニケーションを重視した究極の対面販売を実践しているのである。
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