東日本大震災は日本経済への大きな打撃を与えた。製造業を中心産業としてきた日本にとって、脱原発による電力制約は産業構造の転換を促す。今回、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授の野口悠紀雄氏に、日本経済論の分野における第一人者として、現在のエネルギーをめぐる議論と産業構造の関わりについて大局的な見方を語っていただいた。
<再生可能エネルギーに頼ることはできない>
8月26日、再生可能エネルギー特別措置法案が参議院で可決され成立しました。しかし、これが脱原発の切り札になるという簡単な話ではありません。太陽光、風力などの発電は国土の広さと密接な関係があります。日本では、現在の総発電量に占める再生可能エネルギーの比率は1%程度で、長期エネルギー需給見通しでも20年度で2%しか見込んでおらず、広大な国土を持つアメリカや中国と同列に論じることはできません。
コスト面でも、特別措置法では電力会社が固定価格で買い取るとしていますが、再生可能エネルギーは高コストであるため電力料金に上乗せされます。そのため電力会社は消極的で、普及には財政補助も必要でしょう。さらに電力の最大需要地は都市で、再生可能エネルギーの主な供給地は人口の少ない地方ですから、電力会社間の取引が必要ですが、現在の電力会社の地域独占下では、これが障害となって円滑に進みません。
以上の理由から、再生可能エネルギーに大きな期待はできません。仮に今後、この分野で発電量を飛躍的に増やせたとしても、発電コストが著しく高まるはずです。脱原発を主張する人たちが、この問題をどう考えているかはあまり明らかでありません。また、環境基準の達成はどうするのでしょうか。これは、人類の未来に重要な影響を及ぼす問題です。
こうした問題の解決のためには、相当の政策努力が必要なことはいうまでもありませんが、以上のようなことを無視して無条件に脱原発を主張するだけでは甘すぎるでしょう。
現在のエネルギー基本計画は定量的根拠があいまいです。定性的記述が多いにも拘らず、「2030年までに少なくとも14基以上の原子力発電所の新増設を行なう」という極めて具体的な数字が唐突にでてきます。環境基準についても、それまでの需給見通しとはかけ離れた根拠なき数字と考えざるを得ません。
したがって、基本計画の見直しに当たっては最低限、経済規模(GDP)および製造業の比重、火力発電量を明らかにすべきでしょう。
(つづく)
<プロフィール>
野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著『大震災からの出発~ビジネスモデルの大転換は可能か』(東洋経済新報社、2011年7月)、『大震災後の日本経済~100年に1度のターニングポイント』(ダイヤモンド社、2011年5月)など、ほか著書多数。
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