先日、福祉介護関連のロボット事業について、デンマークで講演会を行なってきました。講演終了後、ある地方自治体の方がご挨拶に来られ、事業提携についてお話をいただきました。
デンマークは、ご存じの通り福祉介護で世界でも最高レベルのサービスを提供していますが、エネルギー政策でもいち早く自然エネルギーへのシフトを進めています。風力発電など再生可能エネルギーがすでに約20%に達しており、2050年までに化石エネルギーの使用をゼロにするという目標を掲げています。事業提携のお話をいただいた自治体は、海に囲まれた島にあり、風力発電で地域の需要を大きく超えたエネルギーを産み出しており、それを活用した新しい事業を模索しているということでした。
まだお話をいただいたばかりで、当社のロボット事業がどのようにつながっていけるか検討を始めたばかりですが、デンマークのなかでも、1つの地域が自分たちの持つ風力発電エネルギーという資産をどう活用していくか真剣に、また戦略的に考えているということに驚きを覚えています。
ところで、私は以前より、日本という社会は歴史的に見ても中央集権型ではなく、地方がそれぞれ主権を持っていた時代が長く、その時代にこそ発展してきた、と考えております。日本が中央集権型だったのは、平安の律令制度下と明治以降だけで、江戸時代でも徳川幕府の統一はあったものの、地方はそれぞれの藩主がいて、独自の軍隊を持ち、地域の産業を発展させていたわけです。
振り返って、日本の環境やエネルギー政策も地域には、それぞれの地理的、気候的、自然環境的特性があるわけで、「脱原発」という流れは全国的に出てくるでしょうが、それに代わる新しいエネルギー戦略は、地域の特性が当然前提にならなければ意味はない、と考えます。
さて、原発事故の後、当社には多くの政府関係機関、企業から原発事故に対応するロボットへの問い合わせをいただいています。もちろん、生身の人間が近寄って、放射能の危険を冒し作業することはナンセンスであり、当社もこうした場合にこそ、人間に代わってロボットが働くべきだと考え、研究を進めようとしています。
しかし、ロボットはやはり使用環境やその作業目的がはっきりしていなければ、本当に使えるものにはなりません。放射能のロボットに対する影響なども、実際にロボットを使ってみなければわからないことが多いのです。
残念ながら日本の政府も、事故の当事者である東京電力も実際の使用環境を公表してくれません。クリントン長官が来るからといって政治的圧力でアメリカの偵察ロボットは仕方なく使ったものの、日本の企業や研究者には十分な情報開示も行なっていませんし、現場での実証テストの機会も与えられていません。
ロボットが本当に活用されていくためには、実際の環境下で動かしてみることが一番大事なことで、そこでの問題点把握があって、初めて役立つ機能が開発されていくわけです。
自然災害や放射能汚染など大きな環境問題には、ロボットを始め、日本の科学技術は必ず解決に役立つ可能性と能力を持っていると信じています。
ただ、その実現のためには、一企業が取り組むには限界があります。国や地方自治体が本気で自分たちの生き残り戦略として、自然災害の多い日本という国土を守るための投資を行なわなければ、進歩の速度は早まるはずはありません。
そして国や自治体に願うのは、単なる研究ではなく、たとえば、「こういう目的の、こういう機能を持ったロボットが必要なので、実際に予算をつけて購入する」という計画を持っていただきたいのです。
企業は、実際に国や自治体が購入してくれるのであれば、研究開発だけで終わるリスクも減り、次の本格的ビジネスにつながる可能性も高くなり、本気で資金や人材を投入することができるのです。
日本のロボット技術は世界の最先端を行っていることは間違いありませんが、残念ながら、それを活用するべき一番の需要者である国や自治体側に、環境問題の解決を始め、どのようにロボットが使えるのかが十分に理解できていないのが実情です。
当社は、北九州市の消防局と災害救助ロボットの開発を長く手がけてきており、消防の現場の皆様には十分に、こうしたロボットがどう役立ち、どのように使えるのかはご理解いただいています。
ところが、予算化の段階で中央からいつも「実績や前例がない!」との理由で購入に至らないのが現状です。
翻って、デンマークでは1つの小さな自治体でさえ、自分たちの地域特性を活かした産業政策に次々に取り組んでおり、前例よりも将来への戦略的投資を考えています。
日本の社会が東日本大震災と福島の放射能汚染で大きな打撃を受け、経済も社会も非常に厳しい状況が続くなかで、こうしたときだからこそ、それぞれの地域が主体となった将来の絵を描くべきであり、九州という大きな可能性を持った地域は、独自の経済と社会の発展戦略をつくっていくべきではないでしょうか。
ロボット産業は、環境問題の解決というマイナスをゼロに近づける技術だけでなく、通信技術との組み合わせで、遠くに力を伝える―たとえば、離れて暮らすお婆ちゃんの手伝いをするなど、新しい3次元コミュニケーションのツールとしての可能性も開けています。
九州で育った私たちのロボット技術ですが、今、ようやく海外の企業や自治体から引き合いをいただくようになっています。
願わくば、これから実際にロボットを本気で活用していっていただくのが、海外やほかの地域ではなく、「まず九州であってほしい」というのが私の気持ちです。
<COMPANY INFORMATION>
■(株)テムザック
所在地:福岡県宗像市江口465
設 立:2000年1月
TEL:0940-38-7555
URL:http://www.tmsuk.co.jp
<プロフィール>
髙本 陽一(たかもと よういち)
1956年2月24日、北九州市生まれ。神奈川大学卒業後、大阪市の産業機械製造会社に入社。その後、北九州市に戻り「髙本商会」に専務として入社。87年11月、(株)テムスへ社名変更し、社長に就任。2000年、(株)テムザックを設立し、ロボットの開発・販売に携わる。
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