<金融危機を考える際の2つの区別>
金融危機を考えていく際に重要なのは、その危機は「流動性」に基づく危機なのか、「ソルベンシー(支払い能力)」によるものかを明確に区別することである。流動性危機というのは、突発的な資金繰り悪化などによる金回りの危機だが、ソルベンシーによる危機とは違って、中央銀行などの金融政策で封じ込めることができるものである。ギリシャ支援は、この2つの危機を混同していることで、泥沼になっているという見方をする金融関係者が多い。
サブプライム危機を予測して当てた、ニューヨーク大学教授のヌーエル・ルービニもまたその一人である。彼は、去年9月にFT紙に寄稿したコラムのなかで、「速やかにギリシャがユーロを自発的に離脱すべきだ」と述べているが、そのなかでこの2つの区別を行なっている。
彼は、インソルベント(債務支払い能力のない)国家群とそうではない国家群を分けている。前者に該当するのが、ギリシャとポルトガルであり、後者に属するのがイタリアやスペインだという。事実、欧州中央銀行(ECB)が去年の年末に実施した、期間3年の4,890億ユーロになる緊急資金オペの効果が数週間かかって回ってきたこともあり、イタリア国債の利回りは、去年の11月では7%だったのが、大幅に低下している。
ロイターの報道では、27日の10年債利回りは5.92%。前回、12月末の10年債入札でつけた7%付近を大幅に下回る水準になっている。結局、ECBが実施した巨額の資金オペによって、ユーロ圏のイタリア、スペイン、フランスといった南欧国家の銀行は各国の国債を買う資金を得た。だから、国債の利回りが急低下した。ECBは直接にはこれらの国々の国債を買ってはいないが、融資を受けた銀行が代わりに国債買いをした。民間企業には資金は回らないが、国債市場はこれで支えられるということのようだ。ただ、それでもギリシャに次いで危ないとされているポルトガル国債の利回りは、このECBの資金供給オペのなかでも上昇を続けている。ルービニ教授の言う通りに、流動性危機国家とそれ以外の明暗が分かれているということだ。
ルービニ教授は同じコラムのなかで、ギリシャ支援は無駄金(wasted)だとさえ言う。それよりも、「ギリシャのユーロ圏離脱」を前提にして、そのことによって生じる危機から流動性危機だけにとどまっている国々を隔離する(リングフェンス、ring fence)ための資金の増強に回すべきだと主張している。
このリングフェンスとなるべき基金が、EFSF(欧州金融安定化ファシリティ)やそれと並行して今年の半ばには設立されるESM(欧州安定メカニズム)である。これは、別名「欧州版IMF」と言われるもので、これによって重債務国の国債格下げや価格下落による欧州大銀行の大幅な損失による自己資本比率の低下などの際に、資金を手当するパッケージの基金となる。EFSFの資金力の裏付けになっているのは、ユーロ圏6カ国のトリプルAの国債の信用だったが、1月15日にフランスとオーストリアが格下げされたことで、融資枠が当初4,500億ユーロだったのが、2,700億ユーロに縮小してしまった。
基金の資金力を補うのは欧州各国だけではなく、IMFにも期待されている。今のところ、米国は「資金拠出はしない」と言っており、そうなると中国と日本が出資を迫られることになりそうだ。だが、中国は欧州各国の価値ある企業群を買収することに興味があっても、国債には興味がない。そうなると、奉加帳(ほうがちょう)は結局、日本に回ってくるのかもしれない。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら