国内独立系の投資顧問会社、AIJ投資顧問(東京都中央区、浅川和彦社長 資本金2億3,000万円)が、契約している124の企業年金から受託した資金約2,000億円のほぼ全額を、租税回避地の英領ケイマン諸島の私募投資信託を通じて運用していたことが明らかになり、金融庁は24日朝、AIJに対し、業務停止命令を出した。
証券取引等監視委員会は、AIJが情報隠しのために同諸島を使った疑いがあるとみて、実態の解明を急ぐことにしており、金融庁は証券監視委の正式な検査結果を待って、同社の登録を取り消す方針で、AIJは廃業となる見通しだ。
AIJが受託していた資金の9割が消失していると見られており、その要因の一つは相場の急変などによる運用損失の拡大と、もう一つは集めた資金を投資に回さず他の用途に流用した疑い。
資金の流れは明らかになり始めている。まず企業年金がAIJとの間で投資一任契約を結ぶ。
AIJはケイマンの私募投信に年金資金を投資することを指図し、 実質的なグループ会社であるアイティーエム証券(東京・中央)を通じて資金を流す。 私募投信に流れた資金はAIJの実質的な指示で、英国系のバミューダ銀行を通じて運用されたとしている。
証券監視委は、AIJが情報を隠すため、ケイマンを経由する資金の流れをつくった疑いがあるとみており、粉飾決算が明らかになったオリンパスもケイマンなどのファンドを使うことで、当局の監視を逃れていた。
「AIJは年金基金や年金資産を管理する国内信託銀行のチェックが働きにくい仕組みを、意図的につくった可能性が高い。私募投信を組み込むことで資金の流れは一層複雑になり、情報は外部から把握しづらくなっている。もし投資顧問が国内外の株や債券などで運用するよう信託銀行に指図すれば、 売買に携わる信託銀行は運用の実態を把握できるが、AIJは私募投信を使うことで、運用の実務に信託銀行が近づけないようにしていたのでは」 と関係者は指摘する。
今回の問題が発覚したきっかけは、AIJの「高収益」に疑問を感じた外部からの指摘だった。一方で、AIJは1989年の設立以来、一度も証券取引等監視委員会の定期検査を受けたことはなかったという。
自見庄三郎金融相は24日、閣議後の記者会見で、投資一任業務を手掛ける国内263社の投資顧問会社を対象にした一斉調査を開始すると表明した。金融の緩和を受けて投資顧問会社は、2007年に認可制から登録制になったこともあり急増したが、今回のAIJの事態を重く見て金融庁には「認可制に戻すなど幅広く検討すべきだ」(幹部)との声も上がっている。当局の監督体制のあり方も問われそうだ。
一方証券業界の体質も問われている。AIJの浅川社長は野村証券のトップセールスマンであった過去を持ち、またオリンパスの損失先送りと損失解消工作を指南し、逮捕された中川昭夫容疑者(61)、横尾宣政容疑者(57)、羽田拓容疑者(48)、小野裕史容疑者(48)の4名も、野村証券OBであり、証券会社出身者の資質が問われている。
また東証は検察当局の捜査中にもかかわらず、オリンパスを「特設注意」にして上場維持を打ち出したが、本件を含む相次ぐ不祥事に対して、毅然たる対応策を打ち出せていない。このような証券業界の体質に投資家の厳しい目が注がれている。
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