<生産増強、コストダウンへの挑戦>
東レの技術者たちの飽くなき技術向上への挑戦と、それをバックアップした経営サイドの判断と長期的戦略。つまりは、この事業に賭ける「粘り」が、炭素繊維の材料としての運命を変えたと言っても過言ではないだろう。
仮に、東レがボーイング社の高度な要求に応えることができなければ、炭素繊維が鉄やアルミなど金属に取って代わることはできなかっただろう。材料としては、釣りざおやテニスラケット、ゴルフのシャフト、人工衛星の部品に使われるだけで終わったかもしれない。
ボーイング社の要求に東レが応え、研鑽を繰り返したことで、材料としてのレベルも格段に上がった。先端材料として、世界で需要が高まっている。東レでは、グローバルで高まる需要に応えるため、日本だけでなく、アメリカ、フランス、韓国で新設備を増設し、生産増強に努めていく。
電気自動車など用途の可能性は限りなく広がっているが、まだまだ生産、供給にコストがかかるのが難点。現時点では、生産態勢の強化と、コストダウンへの努力が必要となっている。
炭素繊維は、樹脂と組み合わせて、複合材として使用する。アクリル繊維を生産する過程と、アクリル繊維を焼成し、樹脂と組み合わせ、複合素材として使えるようにする過程において、きめ細かく、丁寧で、高度な技術を要する。かなりの手間暇がかかる。
鉄などの金属との間にコスト差があるのは、この手間がかかる分であり、生産量を容易に増やせないのもここに理由がある。
航空機で材料として採用されたのは、航空機の製造には、もともと時間と手間がかかるものであり、生産に手間がかかるという部分へのハードルは高くはなかった。炭素繊維を材料に採用すれば、リベットを打ち付けるなどの製造工程を省けることになる。材料のコストと、製造工程にかかるコストが釣り合った、というところも、炭素繊維が航空機の材料として採用された背景にある。
軽量化のニーズが高まっている自動車の材料に炭素繊維が使われるようになるには、量産性を高め、かつ、コストを下げなければならない。この2つを両立させるのは、容易ではない。世界屈指のメーカーとして、東レの挑戦はまだまだ続くのだ。
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