<戦犯企業「東電」を生け贄に>
こうしたなかで経産省、内閣府の官僚たち、さらに枝野氏や仙谷氏ら民主党政治家が考えた当面のゴールは、福島第一原発事故を招いた戦犯企業である東電を「生け贄」にすることだった。債務超過寸前の東電の改革は待ったなしだし、その改革は大義名分が立ちやすく、世論受けしやすい。そこで落としどころとして浮上したのが、東電の経営陣の交代とともに経営改革するというアイデアだ。
少なくとも4兆5,400億円もの賠償債務を抱えている東電には、政府が設立した原子力損害賠償支援機構が賠償資金を交付し続け、東電の"生殺与奪の権"を握っている。原賠機構が東電と一緒に練っている経営改革案(総合特別事業計画)では(1)原賠機構が約1兆円を出資して東電の債務超過を回避(2)議決権比率は当面50%程度にとどめるが、議決権つきの普通株式に転換できる種類株によって潜在的には3分の2超を握ることができるようにする(3)「火力発電・燃料調達」「送電」分野など疑似分社化組織であるカンパニー制を採用し、部門ごとの損益管理の徹底化を図る(4)委員会設置会社にし、社外取締役が過半数を占めるようにする――といったことが盛り込まれる見通しだ。
いずれも微温的な、常識的な線の改革に過ぎないが、議決権の過半を握り、新経営陣を送り込むことさえできれば、「発送電分離も脱原発もやりやすくなる」(エネルギー政策に関わっている内閣府の官僚)と見られ、菅政権の衣鉢を継ぐような脱原発志向の勢力や経産省内で台頭しつつある電力自由化論者には、歓迎されてきた。
ところが、政権が望むような東電の経営を引き受けてくれる、いわば「火中の栗を拾う」財界人はいなかった。一時は40人もの候補者がリストアップされたといい、数人には打診がなされた模様だが、結局、誰も首を縦に振らない。このため、3月下旬に人事とセットで発表されるはずだった総合特別事業計画は先送りになり、人事とともに4月中に策定することになりそうだ(遅くともゴールデンウィークの連休前に決めるという)。
<手詰まりのなか進む、原発再稼動の地ならし>
こうした事態を喜んでいるのは、東電の勝俣恒久会長と西澤俊夫社長、それに9電力各社だろう。
勝俣・西澤両氏は、これまで国有化――すなわち株式を政府に握られることに一貫して抵抗してきた。国に経営権を握られれば、経営陣は総退陣させられるうえ、「発送電分離」が強行されて東電がバラバラに解体されてしまうかもしれないからだ。当然、電力各社でつくる「電事連」もホッとしているだろう。
枝野氏が昨年12月、発送電分離の検討を盛り込んだ「電力システム改革に関するタスクフォース『論点整理』」をまとめると、連合の有力差別組織である電力総連は「到底看過できるものではない」と、猛反発するペーパーをまとめて息のかかった民主党議員に働きかけてきた。発送電分離という電力解体につながる改革は、労使ともに絶対譲れない。民主党政権を罵倒し続け、勝俣氏と気脈を通じている日本経団連の米倉弘昌会長は、後継経営者の人材難という政権の足元を見透かし、かねてからソリの合わない枝野大臣に「東電の会長は枝野さんがやればいい」と3月30日の記者会見で挑発さえした。
リーダーシップ不在で手詰まりのなか、原発再稼働の地ならしは着々と進む。原発依存度が50%に達する関西電力にとって、原発再稼働は絶対に譲れない。関電の大飯原発3、4号機の再稼働を経産省の原子力安全・保安院が推し進めようと熱心なのは、関電のそんな事情を気にしているからだ。菅政権時代、経産省から切り離されて環境省の傘下に移管されて4月1日から原子力規制庁になるはずだった保安院は、規制庁設置法案の国会審議が進まず、当面現状の保安院の体制が維持される雲行きである。
東電のトップが決まらず、発送電分離も後退し、原発は再稼働、安全規制は原発事故時の体制が継続――そんなお粗末極まりない様相を呈するとなれば、有権者の民主党離れは一層加速するだろう。
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