よく目にするようになった放射線の危険性を示すグラフ(図参照。x軸は被曝量、y軸は健康への悪影響を示す。y軸は自然放射線被ばくによる健康への影響を始点としている)は、途中から実線が始まっている。なぜx軸y軸共に0から始まっていないのかというと、この実線が始まるところ「以上からしか」危険性がないという認識に基づいているためである。
「基準値以下ですから健康を害する危険性はありません」
という発言の根拠は、このグラフにある。この、一定値以上でなければ危険がないとする考え方はしきい値があると呼ばれる。しきい値とは、これ以上は危ないというリミットを指す。実線部分以上の被曝(高線量被曝)は健康を害することはわかっており、その考えはほぼすべての研究者で一致している。したがって実線で書かれているのである。一方、波線部分の、いわゆる低線量被曝については見解がわかれている。しきい値を採用するか、しきい値などないとするか、ここが低線量被曝の捉え方の違いなのである。各論を見てみよう。
1つ目は健康被害がないどころか、健康に有益である、とするホルミシス仮説と言われているものだ。ラドン温泉が健康によい、というものである。この論によると体には壊れた「細胞」の修復機能があり、壊れた少量の細胞は入れ替わり新たな細胞として生まれ変わるために健康になるとしている。『少量の毒は薬になる』という考え方だ。これは一理あるように思われる。長寿の秘訣は毎日1杯の晩酌です、とご長寿の方がおっしゃるように、少量の毒は健康に役立つ実例があるからだ。この場合、波線部分はぐっと下に曲がった曲線を描くことになる。詳細にわけるならば、ホルミシス仮説と細胞修復仮説はわけられているが、いずれも直線モデルよりも下に曲がった曲線を描くことに違いはない。
2つ目はLNT仮説だ。日本語では直線しきい値なしモデルと言われている。論の一致をみている直線部分をそのまま伸ばすモデルである。これは「一定以上でなければ健康被害がない」とするしきい値の考え方を否定するものだ。このモデルによると、放射線被曝は、どれだけ少量であろうと健康被害が起こる可能性がある、としている。浴びた放射線の量によって正比例的に影響が出る可能性が高まるというものだ。感覚的には理解できる。細胞の設計図が破壊され、不良品細胞をつくってしまった場合、免疫機構の活躍で排除されるのが人体の構造だ。これは免疫の正常な活躍を根拠とするものであるから、万一、免疫機構が見落としてしまって不良品細胞の量産を許してしまう可能性がないとも限らない。たとえ1つの細胞であっても、見逃されたら増殖の危険性はあるし、線量によって傷つけられる細胞の数は増えるために直線を描く、とするLNTモデルにも理がありそうである。
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