<煮え切らぬ社内>
DKホールディングスは、黒田会長が創業した純然たるオーナー企業だったが、上場とともにワンマン体制からの脱却を図っていた。しかし、取締役たちは、みな若い頃に、中小企業であった当社に入社して、ワンマン経営時代の感覚を払拭しきれていなかった。このため、指示待ち症候群や、「最後には会長が何とかしてくれるだろう」といった甘え、それに以前のように会長から細かい指示を言われなくなったことの副作用として、トップに悪い情報を速やかに上げないという悪癖が生まれていた。
こういう雰囲気に起因して、不動産金融の重大な変調を早期発見できなかったことは残念ながら事実だろう。このため営業担当役員の間では5月になっても、まだ事態は大分ホテルなど限局された範囲での出来事である、という捉え方がされていた。
私は、3月の大分ホテルの資金借換の結果、銀行に対して毎週の販売活動を子細に報告する必要に迫られたので、従来は月次単位で営業が作成していた商談報告を、週単位に切り替えるように指示した。
そういうことも、営業系の役員に感性があれば自発的に行なっていただろうが、そのような動きはなかった。このようにして対応が出遅れたことに、私は地団駄を踏む思いだった。それでも前に進まざるを得ず、私から指示を出したのである。
ところが、商談報告を週単位に切り換えたものの、営業面に危機感が浸透するまでに、なおしばらくかかった。
資料を見ると、物件ごとに各見込み顧客名と商談経過が記されているのだが、何週間も同じ内容で放置されていたり、もう販売は無理になった顧客の内容が抹消されずに残されていたり、といった具合である。ミーティングで営業の責任者に質問をしても何も把握していなかったこともある。
5月くらいの段階では、そういった受け答えも危機感のないものだった。
「大分ホテルは、もともと13億円で売る予定でしたが、今回当社で営業することで什器備品の投資が1億円かかったので、売値を15億円にします」と、福岡の営業責任者である稲庭取締役。
危機意識に欠けると感じたので私は突っ込んだ。
「13億円でファンドが金を借りきれなくて売買が流れたのに、15億円で誰が買うんですか。いったいどんな属性の顧客に持ち込んでいるんですか?地元の名士みたいなキャッシュリッチな顧客ですか!」
これに対し稲庭取締役が答弁する。
「価格の問題は、まずはこれで出してみて反響を見て見直しをかけます。アプローチ先は、●●や■■のファンドです。●●ファンドにこの物件を持ちこんだところ、ファンドの担当としては是非やりたいけれども、ローンがねぇ、ということで投資する意欲は満々の状態でした」
「大分ホテルの売却も、ファンド自身は買う気まんまんだったが、ローンが降りなくて流れたのではないか。つい1カ月前の話を何もわかっていない。ファンドがやりたいのは当たり前、ローンがつかないのも当たり前だよ。そんなことを繰り返していてはいけない。今は、キャッシュリッチなところに持っていくしかないよ!」と、私。
5月一杯くらいはこのような危機感の薄い状態が続いた。
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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