<DKホールディングスを取り巻く風評の変化>
7月には、いくつもの新興デベロッパーが赤字決算や業績下方修正を出していた。なかには、よほど無理な物件仕入をしたところかと思われたが、倒産するところもあった。だから、この頃になると不動産業界の不振は、一般の人にも知られるようになった。
家内が美容室や娘のピアノ教室などに出かけても、
「ご主人のお仕事、大変なんじゃないですか?」
「DKホールディングスさんは本当に大丈夫ですか?」
というように聞かれた。
私は、家内にそのようなことを言われるたびに、
「まあ、大変なことは間違いないけれども、何とかなるさ」
などと答えるようにしていた。
上場会社で情報管理は厳密にしなければならないため、家内も、周囲からのそういう問いかけに対しては、意識してノーコメントを通していたようだ。それでも、夫が帰るのが遅いとか、最近は土曜日も出勤している、という話だけでも周囲は、DKホールディングスが苦境に置かれていることを悟ったのではないだろうか。
それだけではない。このような話題が家庭内で出ると、4歳だった娘もそれに耳をそばだてている。そして、10月の東京出張途上、保育園に向かうタクシーのなかでだったが、
「ねえ、お父さんの会社つぶれると?」と尋ねてきたのにはびっくりした。そして、
「お父さんの会社つぶれたら、ペッシャンコになっちゃうやんか」というのだ。
会社がつぶれるということを、大人の会話のなかから聞きわけていたが、会社がつぶれるということの真の意味までは、どうやら理解していないようだった。
信用調査会社の取材も、その頻度を増してきた。
これまでは年に1回、決算に基いた取材がある程度だったが、4月くらいから、取引先からの発注によるものと思われるスポットの取材が入るようになった。これが7月になるとさらにステップアップし、各調査会社とも、各銀行別の借入残高や主要なプロジェクトの販売営業状況を追いかけるようになっていった。
もちろん、これらに対しても統一された公式見解に則って回答していった。
黒田会長の自宅に新聞記者が夜討ち朝駆けに来たことが何度もあった。私も、出勤途上に記者よる立ち話での取材を受けたことがあった。状況が厳しいときほど、裏表なく、公式見解をきちんと述べることが大切であると痛感した。
3月までは、ファンドバブルの崩壊は一般の人の知るところではなかった。
ところが4月くらいから不動産会社の赤字決算や業績下方修正が相次ぎ、7月には、不動産業界はかなり厳しい状況に置かれている、という認識が一般化するに至った。そういうなかで、8月に天神南部の土地が47億円で売れたので、それは明るいニュースとして伝わり、これなら何とかなるのではないかという見方も強まった。
ところが、そこに9月のリーマン倒産が伝わり、あらゆる投資家が見送りムードに転換し、これでDKホールディングスのトドメが刺されたことは、先に述べた通りである。
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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