＜大学生を騙してはいけません！＞
　先日、厚生労働省は職業紹介・相談業務にあたる公共機関「ハローワーク」の窓口を全国の大学に設置する方針を固めた。専門相談員（ジョブサポーター）が500カ所の大学に常駐し、学生の就職を支援する。

　「大企業や有名企業に目を向けがちな学生に、優秀な人材を求める地元の中小企業やベンチャー企業を紹介することで新卒雇用を底上げする」ことが狙いだ。政府が６月にまとめる、３本の柱（雇用のミスマッチの解消、機会均等・職業教育の充実、キャリアアップ支援）からなる若者雇用戦略に盛り込み、来年度の設置を目指すという。専門相談員の不足が見込まれる場合は、2013年度予算で増員要求するとある。

　ここまで現実を無視した机上の空論が描ける霞が関官僚の厚顔無恥ぶりには呆れる。文科省の文教行政に加えて、厚労省の労働行政まで、大学を"オモチャ"にしている。どこまで暴走するつもりなのか。

　この政策の根拠に「ハローワークによる就活支援対策の結果、卒業を控えた大学4年生で、まだ内定を得ていない学生の内定率を数％押し上げることができた」とある。これは大ウソである。ここには、巧妙な数字のマジックがある。
　新聞記者は、記者クラブで渡される"大本営"発表の原稿とは別に、自分の目で再度データを検証しているのか。"未来のある若者"を騙して恥ずかしくないのか。

　一番簡単な話から始めたい。「優秀な学生が、優良ではない地元の中小企業やベンチャー企業にいくことはない」という揺るがしがたい事実がある。優秀な学生の多くは、有名・大企業に行く。それは、有名だとか、大きいとかいう理由ではない。内容や質がいいからである。優秀な学生で、積極的に中小企業やベンチャー企業に行く人間もいる。それは、それらの企業を"自分で優良と判断"し、"その将来性に賭けた"からだ。

　読者はよく「魅力ある・優良な中小企業の情報が学生に伝わっていない」という話を聞くと思う。しかし、これも大ウソである。自分の一生を決める際に、本当に優秀な学生が、魅力ある中小企業、ベンチャー企業を見失うことはない。人材ビジネスに携わるコンサルタントが驚くほど、人気のあるベンチャー企業や中小企業は存在する。そして、そのいくつかは、彼らの入社後、さらに大きくなり、IPOなどを実現している。もちろん、彼らも重要な戦力になっている。

　さらに言えば、現在小さくても、将来大きくなる優良企業は、苦しくても、人材獲得費用（お金だけの問題ではない）は"ケチ"らない。その重要性を充分認識しているからだ。間違っても、優秀な人材の獲得をハローワークなどには頼まない。会社の命運、将来がかかっているのだから当たり前の話だ。

｜　（２）　≫

※記事へのご意見はこちら