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SNSI中田安彦レポート

「維新の会」の"維新"とは自民党の世代交代のことかもしれない(1)
SNSI中田安彦レポート
2012年9月19日 11:22
SNSI(副島国家戦略研究所)研究員 中田 安彦

<石原都知事と尖閣諸島の領土問題>
 9月18日は中国大陸で日本に介入していく事になった満州事変(1931年)から81年目ということで、中国や尖閣諸島周辺が緊張している。尖閣諸島の領有問題がにわかに浮上したのは、今年の4月16日にワシントンで石原慎太郎東京都知事が、保守系シンクタンク「ヘリテイジ財団」で「尖閣諸島を東京都が購入する」と爆弾発言したことがきっかけであり、これにより尖閣諸島をめぐる日中の緊張は2レベルくらい上がった。日米中と尖閣諸島をめぐっては様々な当事者の思惑もあり、各国内での有力者の間でスタンスの違いもある。ただ、石原慎太郎が、尖閣諸島を買うための募金活動を行なったことは余計なことであった。これで「国内問題」(国内の権利移転関係の問題)であった尖閣問題が「外交・国際問題」になってしまったからだ。石原都知事は、煽るだけ煽ってガソリンを撒いて火をつけるだけつけて、責任を取られないつもりのようだ。都政の責任者が全く関係のない沖縄県の島の領有問題を弄ぶというのはよろしくない。

 石原都知事が講演したシンクタンクは、米海軍や海兵隊に影響力が強いシンクタンクであり、どちらかといえばネオコン派に近い。ネオコン派というのは単純に言えば、軍需産業の周辺でご飯を食べている知識人から軍需産業までの利権集団をいうのであるが、石原都知事が尖閣問題に余計なことにガソリンを投下してくれたお陰で、アメリカの軍需産業としてはオスプレイ配備や武器ビジネスがやりやすくなっただろう。

 橋下徹維新の会代表はよくファシストをもじって「ハシスト」と左翼系から批判されるが、ファシズムの元祖イタリアの指導者ムッソリーニも愛国心を武器に政治を翻弄した。ムッソリーニのメンター(指導者)ともいえるのが、イタリアの愛国詩人であるダヌンツィオという人物であった。ダヌンツィオはイタリア王国が領土と主張した地域のうち、イタリア統一戦争後もオーストリア領内に残った地域のことを「未回収のイタリア」と呼び、その奪還運動を国民運動に仕立てた。なんと、ダヌンツィオは未回収のイタリアを奪還するための義援金を募集した。石原都知事を動かしたのはその歴史的事実だったのではなかろうか。石原と並ぶ戦後保守小説家といわれる三島由紀夫はダヌンツィオに影響を受けていたと言われる。

 石原に影響を与えていた可能性はある。だが、石原都知事と、三島由紀夫についての著作もある猪瀬直樹・副都知事が二人三脚で呼びかけた尖閣募金15億円は宙に浮いたうえに、中国を不必要に刺激してしまった。いずれは尖閣の実効支配のために国有化も必要だったろうが、石原都知事が新党含みとも見える募金キャンペーンを仕掛けたことによって、尖閣諸島の日本の実効支配が揺らぎ始めてしまった。地権者のマネーゲームと石原の「愛国パフォーマンス」は取り返しのつかない損失を日本の国益に与えた可能性があるといわねばならない。実効支配は粛々と行なうべきだったのだ。石原慎太郎は、元々は「NOと言える日本」で登場してきた反米政治家だったのだが、現在はネオコン派がうまく利用する手駒になっている。石原都知事は海外では「ウルトラナショナリスト・イシハラ」と呼ばれ、場合によっては「極右政党」の頭目と認識されていることを日本人はあまり知らないのも問題だろう。

 その石原都知事を「御大、御大」と読んでいた大阪維新の会の橋下徹代表だが、最近はそういうこともサッパリ言わなくなった。石原慎太郎が必ずしもTPP推進ではないことや、亀井静香や平沼赳夫といった自民党保守層(郵政民営化反対派)と組んでそれを母体に新党を結成しようとしたことを嫌がったのだろう。保守連携では維新はむしろ安倍晋三の系統との連携の可能性を探り始めた。

(つづく)

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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