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正しいデフレ対策は存在する~「ぼくらの日本」三橋貴明(扶桑社)
書評・レビュー
2012年9月24日 11:44

 『本書は平成バブル崩壊後に社会人となり、所得が増えない経済環境のなかで大人になっていった「成長を知らない子供たち」のために書いたものだ。すなわち、成長を知らない世代の皆さんと、これからの「成長」を共有するために書かれた物語である。』

0924_book.jpg これは、本書の第一章にある一節で、現在、20代から30代の若い世代を意識して、書かれている。著者は、1969年に熊本県で生まれた。麻生太郎元首相との共著もあり、作家・経済評論家として知られているが、本業は中小企業診断士である。

 日本経済が低迷して20年。その間に育った我々若い世代には成長の実感がない。一方、現在の日本には、今後の経済成長を否定する大人たちがいる。彼らの多くは、過去の所得から資産を蓄え、成長しなくても「十分に大丈夫」な立場にあるか、あるいは「日本は経済成長すべきではない」と頑なにネガティブに信じている人である。そうした大人たちは、団塊の世代をはじめ過去に高度経済成長やバブルを経験した人たちがほとんどだ。たしかに1997年の橋本政権以降は、名目GDPの成長が見られない。その分だけ国民が所得、付加価値を生み出していないことは事実だ。しかし、日本国民は働かなくなったのか? そこに著者は疑問を投げかける。

 名目値で見た金額が増えないのは、デフレの影響であると結論付ける。デフレに陥ると名目値で見た財やサービスの価格が下がる。その結果、以前と同じ量の財やサービスを提供しても得られる所得が少なくなってしまうのである。

 デフレの原因を「少子化」や「草食男子」の増加に求める論者もいるが、三橋氏は一切無関係だと言い切る。
 昨年の東日本大震災について著者は、まるまる一章を割いているが、このなかで被災地の復興には建設業の存在が不可欠であることを指摘している。途上国には建設業者が育っていないところが多い。日本が敗戦後、急速に復興を果たしたのは建設業者の果たした役割が大きかった。空襲で焼け野原にされ、まともに舗装された道路もなかった国が、わずか20年で高速道路を建設し、オリンピックを開催できるまでに発展した背景は、言うまでもなくインフラ整備が進んだことによるものだ。長年にわたって建設業は日本経済を牽引し、支えてきたにもかかわらず、この20年、まるで悪の巣窟といわんばかりの論調がメディアを席巻した。その20年はデフレの時期とほぼ一致する。

 そもそも民間企業が銀行からお金を借りる理由は、設備投資が目的であることがほとんどだ。設備投資は将来の収益のために行なわれる。公共投資も同じように将来のためのものだ。ところが、公共投資を行なうといえば、税金の無駄遣いといった論調が必ず登場する。著者は、そうした論調と対峙するスタンスを取る。デフレから脱却する道は、京都大学大学院教授の藤井聡氏のいう「国土強靱化」政策にあるという。日本は高度経済成長時期に、欧米諸国に遅れる形で建設したインフラのメンテナンス期を迎えており、耐震化や老朽化による補強・修繕対策を急ぐ必要がある。自民党から国土強靱化基本法案が提出され、公明党も10年間で100兆円を集中投資する「防災・減災ニューディール」を提唱している。土建国家の再来との批判もあるが、とにもかくにも政治はこの方向で動き出した。

 我が国は過去に今より深刻なデフレに苦しみそこから這い上がった経験がある。1920年の大正バブル崩壊、関東大震災や公務員数削減など緊縮財政を強行した結果発生したデフレの深刻化だ。このとき高橋是清たちが正しいデフレ対策を実施し、世界大恐慌から立ち直らせた実績がある。著者は「素直に歴史に学べば良いのだ」と説く。

 一番、著者が強調するところは「貧乏になりたくなければ投資するしかない」という点にある。その投資先は、国民経済の基盤となるインフラを整備することであり、お金や銀行預金などの金融資産は「国富ではない」という。グローバル資本主義の中心は金融だが、本来、金融は実体経済のサポート役に過ぎなかった。ものづくりではなく、金融が経済の中心を占めるようになったこと自体が、異常なのである。

 「日本経済はもう成長しない」、「日本の財政は破綻する」と思う人こそ、同書を読まれることをお勧めしたい。

【近藤 将勝】



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