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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(5)
経済小説
2013年1月 8日 10:25

yuyake_6.jpg 頭取室に戻った谷野は、一人でじっと考え込んでいた。それと言うのも経営会議や取締役会議を通じて、今日はいつもとは違う雰囲気を感じていたからだ。それは普段陽気に振る舞う沢谷専務が、朝から殆ど発言しなかったことだった。顔の表情にもどこか思い詰めた様子が窺われてたいし、それに役付役員の吉沢、北野、川中の3人と顔を合わせても、どことなくその眼差しの奥底から暗い翳を放っているように思えてならなかった。

 谷野自身も、
「みなさん、『第五生命保険に関する調査』の概要について、少し触れておきたいと思います。成約内容を記入した者が196名、他の行員が関わったと思われる事例のみを記入した者が108名となっています。この回答状況を見ますと、維新銀行ではかなり以前から、組織的に第五生命の保険勧誘をしていたと思われます」
 と話すうちに、次第に昂ぶる感情を抑えきれずに、
「保険成約において多数の取締役が関与していると調査表に書かれています。具体的に名前が挙がっていたのは、この会議に出席しておられます沢谷専務、吉沢常務、北野常務、川中常務、松木取締役、古谷取締役、大島取締役、原口取締役の8名です...」
 と言おうと思った瞬間、横の席に座っていた沢谷が、怒髪天を衝く形相で谷野を睨め付けているのを見て、咄嗟に思い止まった。

 そして
「現在取りまとめ中であり、来週半ばには詳しい調査結果の報告書が出来上がる予定ですので、皆さんのお手元にお届け致します。いずれ精査した報告書を中国財務局に提出する予定にしています」と、穏やかな表現に言い換えた方が良かったのか、それとも、そのまま名前を白地にして、何らかの反応を見た方が良かったのか、と悩んでいたが、最終的に、「いずれ詳しい調査報告書が出れば何らかの責任を問うことも出来る。まずはいつもと違う雰囲気だった会議を、無事乗り越えることができて良かった」と思うことにした。
 しかしそれでも何か一抹の不安が頭をよぎり、すっきりした気分にはなれなかった。

 一方沢谷は、「恐らく自分の名前は載っているだろう。もし谷野を睨みつけなければ、あの席で関与した取締役の名前を言っていたかもしれない。まあそれを言わせなかったから良いとするか。調査表をすぐに財務局に出すようなことはさせないぞ。恐らく谷野は調査表を盾に名前が挙がった取締役に責任を被せて退任を迫るかもしれないが、そんなことも絶対させないぞ。まあ見ていろ。この後すぐに吠え面をかかせてやるからな」と、谷野に対する敵愾心をより一層募らしていた。

 谷野が抱いていた不安を見透かすかのように、頭取室の扉を荒々しくノックする音が響いた。谷野の返事を待たずに沢谷は、
「入ります」
 と押し入るように入って来た。
 その後ろには谷本相談役の指示を受けていた吉沢、北野、川中の常務三人も付き従っていた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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