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経済小説

「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(17)
経済小説
2013年1月25日 07:00

 頭取の谷野にとって、あたかも暗闇で不意打ち食らい突然谷底に突き落とされたような錯覚が現実となった。専務の沢谷、常務の吉沢、北野、川中の4人に、退任を迫られたことを誰にも相談できず、悶々とした日々が続いていた。
 谷野は頭取室に1人籠り、今後どうすれば良いか思い悩んでいた。確かに代表取締役であっても取締役であり、2年毎に任期を迎え取締役に選任されないと代表取締役になる資格を失う。
 沢谷たち4人は、このタイミングを待っていたかのように、谷野の任期満了にともない自発的な退任を迫り、もし谷野が退任を拒否すれば再任に反対する動議を提出すると集団で脅しをかけて来た。 

b_26.jpg 果たしてこの行為が許されるかどうかであった。取締役の大きな任務の一つに企業が法令を順守しているか、銀行法に違反していないかを管理監督する責任がある。それと共に経営者の一翼を担う取締役の夫々は、法令を順守しているかどうかをお互いが監視する責任を負っている。そうであれば専務や常務の4人が、いきなり集団で押し掛けて代表取締役の自分に退任を迫る行為は、決して認められるものではないと谷野は思った。
 こんなことがありましたと知り合いの弁護士に相談を持ちかければ、何とか解決の糸口は見つけ出せるかもしれないと思ったが、そのことが公に出れば、それこそ谷野自身の頭取としての統治能力が問われるばかりではなく、伝統ある維新銀行自体が信用を失うことになりかねず、口が裂けても相談できることではなかった。
 
 週末の5月14日(金)、海峡市は風もなく朝から好天に恵まれていた。それとは対照的に谷野は頭取室で何する気力もなく、一人押し黙ったまま椅子に座っていた。すると突然秘書室長から
「沢谷専務からお電話です。今お繋ぎして宜しいでしょうか」
 と聞いて来た。受話器を持ったまま、「良いよ」と返事をすると、沢谷が、
「先日は失礼しました。余りにも突然でびっくりなされたと思います。それでお願いがあるのですが、谷野頭取ともう一度お話しできる機会を頂きたいと思い、お電話しました。明日午後1時にご自宅の方にお伺いさせて頂きたいと思いますが、ご都合の方は如何でしょうか」
と聞いた。 
 谷野は一瞬、何度会っても自分の気持ちは変わらないと思い断ろうとしたが、ひょっとして何か新しい提案でもあるかもしれないとの一縷の望みを抱いて、
「特に明日は何も予定が入っていないので、自宅にはいますが」
 と言った。するとすかさず沢谷は、
「場所をどこにするか色々考えたのですが、ホテルとかよりご自宅の方が一番良かろうと思いまして決めました。奥様にはご迷惑をおかけしますが。それでは明日午後1時に間違いなく、お伺いさせて頂きます」
 と言って電話は切れた。
 谷野は「明日にはすべてが決まる」と、心のなかで呟いた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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