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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(21)
経済小説
2013年1月31日 07:00

 沢谷たち4人はそれぞれの立場から、谷野に退任を求める説得を試みたが失敗に終わり、すごすごと引き揚げることになった。 沢谷は待たせていたタクシーに乗り込むと運転手に、
「2時間も待たせてごめんね」
 と、謝るように声を掛けた。すると運転手も、
「いいえ、これが仕事ですからご心配なく」
 と、返事をしながら、
「次はどちらに参りましょうか」
 と、行き先を聞いて来た。

 沢谷は躊躇することなく、
「運転手さん、次は谷本相談役の自宅に行ってもらおうかね。場所はわかるかね」
 と訊くと運転手は、
「はい、わかっています。前の頭取さんのお家ですね」
 と復唱し、小雨のなかを谷本の家に向かって車を走り出させた。

 沢谷たちを乗せたタクシーは15分もかからず、谷本の玄関前に着いた。料金メーターは2万円近くまでなっていたが、営業本部長の川中は何のためらいもなく、ポケットから銀行支給のチケットを取り出し清算を終えた。

 谷本の自宅は、海峡市立大学近くの高台にある市内でも有数の高級住宅地の一角にあった。そこに維新銀行の役員専用の社宅が東西に2軒並んでおり、西側にある100坪弱の敷地の社宅には、小林辰彦取締役経営管理部長が入居していた。東側の社宅には谷本が入居しており、200坪を超える広大な敷地は高い塀に囲まれ、建物は蔵も備えた本格的な木造住宅であった。
谷本は頭取に就任した1992年6月から居住しており、2002年6月に相談役に退いたが、維新銀行に隠然たる影響力を持つ谷本に対して、退去を求める者は誰1人いなかった。

 本来社宅の営繕は地元の工務店が請け負うが、谷本の住む社宅の営繕は、維新銀行の本店を建設した大手ゼネコンのM建設が直接請負って、地元の親密な工務店に専属で下請けさせる方式を取っていた。痒いところにも手が届くようなきめ細かい営繕は谷本に好印象与え、M建設にとって維新銀行の支店建設を独占受注するための大きな武器の一つとなっていた。

 谷本にしてみれば、「この住み慣れた社宅を将来買い取ろうと思っているのに、厳格な谷野がこのまま頭取を続ければ、買い取るどころかいつ出て行けと言われるかもしれない」と危惧の念を抱いたことも、「谷野頭取交代劇」を計画する大きな要因の一つであった。
 「谷野頭取交代劇」の裏に、谷本のそのような個人的な理由があるとは思ってもみない沢谷たち4人は、谷本の妻の出迎えを受けて広い応接室に招き入れられた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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