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自立する地域社会

地方から始まる地域再生への変革(前)~武雄市長 樋渡 啓祐 氏 × 建築家 有馬 裕之 氏
自立する地域社会
2013年3月 1日 16:19

 1人は、市政においてSNSの利用を積極的に進めるなど、既存の枠にとらわれない自由な発想を持ち込み、市長の立場から地域変革を推進している佐賀県武雄市長の樋渡啓祐氏。もう1人は、世界的に著名な建築家であり、日本、海外を含めたさまざまな都市計画などのトータルプロデュースも数多く手がけている有馬裕之氏。いずれもフィールドは違えど、地域をダイレクトに世界へとつなげていこうとしている2人だ。今回、これからの地域のあり方についての対談を行なった。

hiwatasi0.jpg 樋渡 先日、韓国の慶州に行った際、町そのものが博物館だと言われ「嘘だろう」と思っていたら、本当にそうだったんです。コンビニとかガソリンスタンドに至るまで、すべて韓国風のものです。あれだけの統一感というものはかなり覚悟がいることなのですが、武雄みたいな地方こそ、そういったことが絶対に必要だと思います。ですが日本の場合は、個々であんまりそういったことをやるとてんでバラバラになってしまいますから、ある程度統一感があった方がいいでしょうね。

 有馬 そうですね、難しいところです。日本は現在、いわゆる大量生産のものによって覆われていますので、もしそれをやるとすると、かなり大変なオリジナリティをつくらなければなりません。ですが、僕は、行政はそれをやるべきだと思います。

 樋渡 やはり、真似されるようなものを増やしたいんですよね。「あ、これカッコいいよね」というような。今度、市役所をつくり直そうと考えていますが、これが本当にキーセンテンスになると思っています。たとえば市庁舎ですが、分舎化を考えています。

 有馬 それは、面白いですね。フォーマルである場所こそインフォーマルなものを絡めなければならない時代ですからね。

 樋渡 もう1つ僕が思っているのは、公共スペースというのは、自宅の延長線上であってほしいと思っています。その公共の場所に行けば、「自分の居間と一緒だ」となればいいなと思って。

 有馬 あと1つは、物語性だと僕は思います。やはり、その時代、時代の物語性というものを、「こういう物語でつくったんだ」というような考え方の時代に入っていかないと。未来に向けての物語を、市長として責任を取ってつくるべきだと思います。それくらいの強さがないと。

 樋渡 お聞きしますが、市役所にはどういう物語が求められるのでしょうか。

 有馬 武雄自身という町をまだ僕が完全に理解していないので、少し暴論の話になってしまうかもしれませんが、たとえば町自身が持っている方向性みたいなものを、市長がつくっていかなければならないでしょう。要するに、「物語性」というのは、その土地、流れ、風、その土地に住む意味――そういったものにもう1回目を向けるような流れが必要となります。たとえば、「昔ここにこんな遺跡がありました。ならば写真を撮って、保存しましょう」――というようなショボイ話ではなく、それをいかに本当にそのものに取り組むことができるかまで含めた物語性だと思います。

 僕は、「イメージアビリティ」という物語をやりたいと考えています。イメージアビリティというのは、たとえば春の季節に行くと桜がキレイ――というイメージ1つです。でも、夏に行ったら、夏の素晴らしい青々とした緑があったら、それが2つ目のイメージです。さらに、秋に行ったら素晴らしい紅葉が、冬に行ったら雪景色が――といったような、これが物語だと思うんですね。その地域に住む人が、「桜の季節には、市役所がこんなイメージに覆われるんだ」というようなイメージアビリティです。多くのイメージがあるから、訪れたくなる町になると思うんですよ。1回しか訪れないのではなく、2回目、3回目行ってみよう、そういう物語性が重要だと思います。

 樋渡 そうですね。それに加えて、きちんと「食」を取り入れていくというのは絶対条件なのですが、あとは「土」と「木」を多用したいですね。ここは焼き物の町なので、土と木、あとは「瓦」を前面に出したいですね。

 有馬 それは、こちらで生産されている瓦ですか。

 樋渡 もちろんです。それが大事です。

 有馬 ほかに、「感性価値」という考え方もあります。感性価値というのは、たとえば、一番最初の実例というのは、資生堂の「TSUBAKI」というシャンプーですが、ヨーロッパとかアメリカとかから来ているヘアメイクの状況ではなくて、過去の平安時代にあった、まさに椿オイルとかそういったものに戻った。要するに、日本人の持っているオリジナリティをいかに素朴に、風土というものが、しかも美しく、現代的に翻訳して出せるかということのプログラムでした。

 ただ、感性価値というのは、なかなか評価できないんですよね。ですが、それぞれの場所に行くと、持っている風土のニュアンスというものがあります。道を歩いたときの感じ、今おっしゃったように瓦が多用されていたり、それを高めるための素材の考え方という話だと思います。

 ただ、今までは、感覚というのは指標ができないために、避けてきました。しかし、逆だと思うんですね。その地域に行ったときの、その地域の感性、感覚的なものを前面に押し出せば、自然とほかと違ってきます。むしろ、これからはそういったものを積極的にやらなければダメでしょうね。

 樋渡 それはまったくそう思います。ですから、シンボルという意味と、さっきおっしゃったように感性を上げるというものを、同時に行ないたいと思います。市が目指す方向としては、「こうなんだ」というものを。

 要するに、武雄市なんてそんなにお金があるわけでもないですから、大きなものを目指そうという気もありませんし、目指せません。"リトルフクオカ"とかではなく、ウチにしかできないものを出していきます。それは、すごくこぢんまりとしたものになると思うんですよね。
 ほかに、僕が絶対にやろうと思っているのが、Facebookの本社に行ったときに、「これはスゴイ」と思ったのは、マーク・ザッカーバーグがどこにいるかわかるんですよね。GPS持っているから。「これは面白い」と思って、僕もGPS持ちますよ。公人なので、いるときはどこにいてもわかる、と。

(つづく)
【文・構成:坂田 憲治】

| (中) ≫

<プロフィール>
hiwatasi_pr.jpg樋渡 啓祐(ひわたし・けいすけ)
1969年、佐賀県武雄市生まれ。武雄高校を経て東京大学経済学部卒業後、93年に総務庁人事局(現・総務省)に入庁。総務庁長官官房総務課、沖縄開発庁振興局調整係長、内閣官房主査、内閣中央省庁等改革推進本部事務局主査、内閣府参事官補佐、総務省大臣官房管理室参事官補佐、高槻市市長公室長、総務省大臣官房秘書課課長補佐などを経て、05年に総務省を退職。06年、当時全国最年少の若さで武雄市長に就任した。08年にリコールを受けて辞職するも、出直し選挙で再選を果たした。

<プロフィール>
arima_pr.jpg有馬 裕之(ありま・ひろゆき)
1956年、鹿児島県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、80年に(株)竹中工務店入社。90年「有馬裕之+Urban Fourth」設立。さまざまなコンペに入賞し、イギリスでar+d賞、アメリカでrecord house award、日本で吉岡賞など、国内外での受賞暦多数。さまざまな地域活性の町づくり委員も務める。作品群は、都市計画から建築、インテリア、グラフィックデザイン、プロダクトデザインなどさまざまな分野におよび、日本・海外を含めたトータルプロデュースプログラムを展開している。


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