<自分の遺伝子に責任を持つ食生活!>
――先ほどのお話で、食に不信を覚えてサプリメントに走るのは自然ではないというのは理解できます。しかし、現実的に今サプリメントは2兆円市場になりました。それは、現代社会では、料理する時間がないとか、煩わしいと考えることも一因と思えます。明日の私たちの食生活に関してお考えをお聞かせ下さい。
永山 それは大きなテーマであり、重要なことです。しかし、自分で解決していかないといけません。私は、今がまさに、日本国民だけでなく地球市民が自分の生き方に優先順位をつける時期だと思います。
たとえば、日本人の健康寿命は女性73歳、男性70歳で、どちらも短くなる傾向にあります。平均寿命と比較すると、10年近くは何かしら問題を抱え込んで、生きていくことになります。これは食生活が下手になってきたことに大きな原因があります。
平均寿命までは元気に仕事しながら生きていかなければなりません。それが自分の遺伝子に対する最低限度の責任です。どのような死に方をするかは長寿時代の大きなテーマなのです。
その準備は明日からでは遅く、今日から準備しないといけません。今日、「何を食べるのか」「サプリメントで済ませるのか」「旬の食材を何種類食べるか」は分かれ目なのです。老後に大きな影響がでます。サプリメントは化学合成されたものなので酵素が全く含まれていません。
旬のものが良いと言われるのは、野菜でも、果物でも、自分の遺伝子を守ろうとして、栄養を蓄えようとする時期だからです。一番栄養状態のいい時、酵素状態のいい時に食べるのが旬です。日本人はこの食べ方を継続、実践してきました。
私の生家は福島県の麹屋です。発酵食品まみれで、別棟で味噌蔵もありました。食生活には"旬"はキーワードでした。果物は完熟したものを食べることが大切で、梅の木も杏の木も家の周りにあったので、漬けたりして食べました。それを子供達、孫達に食べさせる為に手入れも怠ることができませんでした。その考えが畑、山、川にも延長、自然に対する心遣いが生まれるのです。今でも畑から縄文時代の土器が出てきますので、その遺伝子は何千年も継続していると言えます。
昔のお母さんは、子供たちを寝かしてからコメを研ぎ、かまどにかけました。朝起きて火をつけるのです。一晩中、水につけておくので、米のグルタミン酸というアミノ酸成分が分解されてGABA(γアミノ酪酸)を作ります。GABAは時間の経過(1時間~3時間)がないと発生しません。
今、いわゆる"おいしい"ご飯は、水で磨いですぐスイッチを入れても炊けます。これは便利ですが、見方を変えると、科学の弊害で、GABAが発生する時間がありません。
GABA(γアミノ酪酸)は気持ちを安らかにする、精神的に安定させる働きをします。電気炊飯器が普及する前に日本人が食べていたご飯は全てGABAライスでした。便利な生活は、確かに楽かも知れませんが、人間の肉体とか精神にとって大切なものが欠落してしまう危険もあります。しかし、最近はこれらのことに関する理解が進んできています。それは、良い傾向と言えます。
<プロフィール>
永山 久夫 (ながやま ひさお)
1932年、福島県生まれ。食文化史研究家。長寿食研究所所長。西武文理大学客員教授(和食文化史)。古代から明治時代までの食事復元の第一人者。長寿の食生活を長年にわたって調査研究している。TV、ラジオ等出演多数、講演実績も多数で、その招聘先は日本に留まらず、ヨーロッパ、アメリカ等にまで及ぶ。著書に、「なぜ和食は世界一なのか」、「日本古代食辞典」、「長寿村の100歳食」、「日本人は何を食べてきたのか」、「武士のメシ」ほか多数。
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