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「維新銀行 第三部 クーデター」~第2章 クーデター当日(35)
経済小説
2013年4月25日 07:00

<経営会議(34)>
 堀部は心の動揺を悟られないように静かな口調で、
「具体的にはどうなるのかね」
 と、検査部長の黒部に問いかけた。
 すると黒部は、
「今の段階では何とも言えないですね」
 と、堀部の顔色を窺うように言った。
 堀部が真剣な眼差しで、
「そうはいっても、代表取締役で、しかも人事権を有している谷野頭取の再任を、経営会議で認めるか認めないかを議論するなんていうことは、異例なことではないのかね」
 と話すと、黒部も、
「そうですよ。大変なことです。その点もあって話し合いが長引いているのではないでしょうか。もし経営会議で決着がつかなければ、取締役会で決めることになるかもしれないですね」
 と、押し殺すような声で答えた。

 黒部と話をしているうちに堀部は、
「なぜ黒部がこんなことを詳しく知っているのか」
 との思いが、大きく膨らんでいった。そこで、
「黒部部長はなぜそんなことを知っているのかね」
 と聞くと、黒部は言って良いのかどうか迷う素振りを見せたが、
「どうせ後からわかることだと思いますのでお話しします。ただこの話はここだけにしておいてくださいよ」
 と言って堀部の顔を見据え、
「実は谷野頭取の退任を求める動きがあり、それを私が知ったのはここ4、5日前なんです。と言うのも、沢谷専務が本店に来て、大沢監査役と長い時間2人だけで話し合っていたとか、大沢監査役が頻繁に頭取室に出入りするようになったとか、また九州本部長の石野専務がこっそり頭取室に訊ねて来たとかの話が伝わり、6階が急に慌ただしくなりました。それを見聞きした部長連中から一体何ごとかと囁かれるようになりました。そのうち、『どうも谷野頭取に対して辞任を求める動きがあるらしい』との噂が広まったのです」
 と言った。

 続けて黒部は、
「それとは別に、第五生命の山上さんと親しい営業推進部の壬生次長が、私にこっそり教えてくれた話なのですが、『山上さんが、第五生命のアンケート調査した谷野頭取に対して谷本相談役はこのまま黙ってはいないよ。今度の取締役会議で恐らく谷野頭取は降ろされることになると自信ありげに話していた』と聞きました。谷本相談役と親しい山上さんから出た話なので、信憑性は高いと思っていました」
 と、予期していたかのように淡々と語った。
 それを聞いた堀部が、
「頭取に辞任を求める動きをするのであれば、1人や2人ではないよね。当然何人か、いやむしろ過半数を押さえておかないと動けないよね。その動きをしているのは誰と誰なのか、黒部部長は聞いているのかね」
 と訊ねたが、黒部は、
「いや そこまでは私にはわかりません。ただ沢谷専務が中心に動いているのは確かだと思います。それと今日は栗野会長が松葉杖を突いて出席されたそうで、久し振りに役員全員が揃っているようです」
 と話した。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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