<「英語」・「留学」関連予算が大判振る舞い!>
安倍政権になってから、政府の産業競争力会議や文科省を中心に、何かにとりつかれたように、急に「英語の勉強」、「海外留学」といったキーワードが浮上。政府が「海外勤務」まで勧める勢いで、この種の予算が大盤振る舞い(総額760億円)になっている。英検に続き、TOEFLや国際バカロレア(IB)受験まで、国費(血税)で負担する勢いだ。
「英語」が話題に上り始めたのは、民主党政権末期の昨年からのことである。楽天やユニクロなどが社内の公用語を「英語」にする動きを見せ、文科省は、小学校の授業に英語教育を導入する事業や実用英語技能検定(英検)を国費で受験させる事業などに乗り出している。
だが、当時は早期英語教育に反対の声も識者に存在していたうえ、「日本人の9割に英語はいらない」(成毛眞著)といった書籍なども話題を集め、バランスがとれていた。
しかし、現在は自民党の勢いからなのか、止めるものがなく暴走中なのだ。
安倍首相は、「世界で勝つ」ために「グローバル人材」を育成しなければならない(成長戦略第2弾)と言う。では、「グローバル人材」とは、どんな人間をイメージしているのか――。少なくとも、国費で "手取り足取り"育成された人材は、世界の一般常識から言えば「グローバル人材」とは言えない。さらに言えば、国費すなわち税金を使うということは、将来的には、その利益は日本国に還元されなければならないのだが、今の政策ではその可能性にはほとんど期待できない。
日本はもちろんのこと、世界の先進国で仕事がなくなってくることは自然の流れだ。これは、「アベノミクス」等の成功、不成功とはまったく関係がなく、単に世界中――とくに先進国で労働者が不要になってくることに起因する、構造上の避け難い問題であるに過ぎない。
<「労働市場」の在り方が抜本的に変化した!>
今後も、大手電気メーカー等の苦戦や生産拠点の海外移転は続き、企業は10年刻みで栄枯盛衰を繰り返していくはずだ。また、景気とはまったく関係がなく、「仕事の質」も確実に変化していく。勉強し続けなければ、その変化についていくことはできない。"グローバル化"と"IT化"が「労働市場」のありかたを抜本的に変えてしまったからだ。景気が回復しても、雇用のミスマッチは続くので、先進国で「失われた職」は戻らない。
実際は、多くの人間がこの事実に気づいているのだが、既得権益を優先し、気づかない振りをしている。その方が、自分にとっても、自分の家族や就職した息子、娘に対しても心地良いからだ。
先進国では、知識労働者が約4,000万人以上職にあぶれている反面、企業が必要とする能力のある労働者は足りないと言われている。原因は、能力やスキルのミスマッチなどいくつかあるが、スキルのミスマッチを大きく悪化させているのが、「地理的なミスマッチ」である。
求められる能力を持つ労働者は、企業が雇いたい地域では供給不足であり、逆に失業率が高い地域では新たな雇用が創出されない。労働市場が、国際的に不均衡になっているからだ。つまり、今世界で求められている、「グローバル人材」とは、"たくましく、いつでも、どこでも、働ける"人材のことを言うのではないのか。
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<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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