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大さんのシニア・リポート~第12回 高齢者に優しいダイシン百貨店探訪記(1)
特別取材
2013年7月18日 16:34

 東京都大田区、JR大森駅から歩いて10分のところにダイシン百貨店がある。「カンブリア宮殿」(テレビ東京)はじめ、数多くのマスコミの取材を受けた今注目の百貨店である。お世辞にも垢抜けた外観というイメージからはほど遠く、街中に埋もれるようにしてある百貨店が、なぜこれほどまでに注目を集めるようになったのか。7月10日、うだるような暑さのなか、西山敷(ひろし)社長に直撃取材した。キーワードは「高齢者に優しい百貨店」「超・地域密着経営」である。2回にわたって紹介したい。

daisin.jpg JR京浜東北線大森駅西口から線路沿いに池上通りが走る。あまり手を加えられていない歩道には人があふれ、そのうえ上り下りもそれなりにきつい。正直高齢者には優しくない歩道を10分ほど歩くと、そこにダイシン百貨店があった。45年ほど前、大森駅からそう遠くない出版社に勤めていた私は、銀座のデザイン事務所に出かけるときはこの駅をよく利用した。歩道も商店街も、何より大森駅西口周辺も昔のままである。つまり、45年間手つかずの昔懐かしい街並みがそこにあった。

 「遠かったでしょう。うちのバス、利用されませんでした?」。存在感のある社長の西山が笑顔で聞いてきた。バスの便があるという。知らなかったと答えると、今度は声を出して笑った。「停留所がないですからね、無理もありません」。許認可の問題が大きな壁となる。そこで「スポーツセンターの送迎バス方式で運行しています」という。停留所は懇意にしているラーメン屋や、ときには利用者の家の前とか。西山は「いい加減さ」を装うが、とんでもない。ダイシン百貨店盛況の謎を探るポイントがここにもあるとにらんだ。

 ダイシン百貨店は一度破綻しかかっている。その急場を救ったのが西山だった。その時の西山は出入りの商業施設の設計屋。請われて社長を引き受けたものの、創業家の息のかかった役員が何人もいた。沈没寸前の大規模小売店という"迷い船"を操舵するには、尋常ならざる力量と並はずれた発想が必要とされた。それを西山はたったひとりで乗り切ったのである。

nisiyama.jpg 再建なったダイシン百貨店が世間の耳目を集めたのは、「カンブリア宮殿」(テレビ東京、2010年6月28日放送)からだと思う。ダイシン百貨店の経営方針を、"高齢者に優しい百貨店""高齢者の居場所"というコンセプトで放送した番組を、偶然私も見た。MCの作家・村上龍の言う「お年寄りが楽しそうにしているのを見るのはいいもんだ」に納得し、取材を申し込んだのである。「あの放送で、わたしが突然善人に変身させられてしまい、その後経営がやりにくくなった」と、西山は再び笑いながら言った。コワモテ(強面)の笑い顔は、優形の数倍の安心感を相手に与える。要注意である。

 ダイシン百貨店の客層の7割以上は50歳以上のシニア世代が占める。そのうちの160人が毎日来店するという。西山が最初に手を打ったのは、「半径500メートル圏内シェア100%」という発想。商圏は広ければ広いほどいい、というのが従来の企業の発想である。日本の小売店業界は、店舗数を増やし商圏を拡大することで生き残りをかけてきた。再生ダイシン百貨店は正に逆の舵を切った。徒歩圏内という限られたエリアで完全に顧客を確保するという戦略を立てた。一見無謀に見えるが、もともと地元の客をことさら大事にしてきたダイシン百貨店にはこの方法が最善手だった。文字通り「超・地域密着経営」である。

 西山にはキャッチコピーが多い。「電気、水道、ガス、ダイシン」もそのひとつ。ダイシンを地域には不可欠の"インフラ"にしようと考えた。キャッチコピーはダイシン百貨店の"色"をより鮮明する。客だけではなく、従業員にも色を認識させる。
 地元の買い物客(とくに高齢者)は親しみを込めて「ダイシンさん」と呼ぶ。店構えと店内の売り場は見事にレトロ風、といえば『ALWAYS 三丁目の夕日』を連想させるが、つまり何となく漂う野暮ったさが、かえって客に親しみやすさや安心感を喚起させるのだ。

(つづく)
【大山 眞人】

≪ (11・後) | (12・2) ≫

<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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