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「断行せよ 信念の前に不可能なし」~四島一二三伝(13)
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2013年12月10日 07:00

 日本に帰国して以降の一二三の人生を紹介する前に、中間的な整理として、アメリカでの生活がどのような影響をその後の人生に与えたのかを考察することに少々おつきあい願いたい。

 経営学の祖と呼ばれるフレデリック・テイラーは、科学的管理法を提唱し「マネジメント」という概念を確立した。彼の方法論はフォードモーターによる大量生産方式などに応用されるが、その過程は一二三の滞米時期と重なる(1910年頃からアメリカ全土に知られるようになり、1911年に著書『科学的管理の原理』が出版された)。これはほんの一例であるが、ちょうどアメリカの社会・経済が、フロンティアの消滅とゴールドラッシュの終焉を経て、ビジネスの分野に先端的なニュースタンダードを生み出していった時期なのである。
 学問的な内容はともかく、そうした「時代の空気」のなか、自らも経営者として成功を治めたことは、もともと有していた強固な意志力とともに、強烈な自負心と、日本に居ては得ることができないビジネスセンスとを一二三に与えてくれていたのではないだろうか。

lemon.jpg 日本へ帰る選択をしたのは、成功して資産を手にしたとともに、帰る場所があったということも見逃せないだろう。
 移民たちのなかには、まさに赤貧という状況からの者も少なくなかった。それに比して四島家は、中農としてそれなりの暮らしぶりだったと言えよう。
 一二三の渡航費用160円をどのように工面したかはわからないが、借金で無理をしたという話は残っていない。
 そうした環境のなかで、ある程度の徳というものを身につけていたということが、アメリカでの成功の基礎にあるように思える。食べることのみに追われるその日暮らしの生活でなく、節制と勤労、倹約と貯蓄によって再生産へと回せる資産を残していくという発想は、小作人を雇い、自営農民として営みを続けてきた四島家で自然に育まれていたのではないか。もちろんそういう階層のなかに生まれても、易きに流れ身を持ち崩す者も少なくないのだから、個人としての努力、自律心の強さは見逃せないのだが。

 こうした一二三の人生観が、プロティスタンティズムを基盤とするアメリカの経済風土にうまく適応した、といささか主観的であるが筆者は考える。

 付け加えておかなくてはならないのは、日本人全般の教育水準の高さである。読み書きそろばんをこなし、九九を暗唱できるのが普通というのは、当時、他国からの移民と比べればその差は歴然だ。一二三は秀才というわけではなく、また高等小学校卒という経歴は日本人ボスのなかでも「たたき上げ」の部類に属するだろうが、それでも当時の学制では義務教育として尋常小学校が無償であったのに対し、高等小学校は有償であり、一定のレベルの教育が施されていた。アメリカ人の合理主義や自立心を理解することに役立っただろう。
 一二三の骨格を作るのは故郷や家庭での伝統的な躾による儒教的道徳、さらに明治期日本の挑戦心であるが、そこに世界で最も先進的なアメリカの風土で培われた血肉がついていった。

 帰国後2年間ほどは、一二三は目立った活動をすることもなく、金島村で過ごしている。かなりの資産もあるし、朝鮮に買った農地からの収入もある。悠々自適の生活だ。そのままでも暮らしに困ることはなかっただろう。
 だが一二三の行動的な性格は、それに甘んずることを許さなかったのだが。

 この間「お嫁さん探し」が行なわれた。なかなか適当な相手が見つからなかったが、当時の三井郡山本村の上野茂一氏の紹介で、村の尋常小学校で先生をしている女性に白羽の矢が立った。
 一二三はこっそり勤務先の小学校におもむき、生徒に体操を教えている姿を見て「生涯の伴侶はこの人だ」と結婚を決める。
 挙式は1920(大正9)年2月18日。新郎40歳。新婦の豊福カツミは28歳だった。新婦の方は当時それが一般的だったように、新郎の顔を見たのは結婚式の時が初めてだったそうで、「結婚衣装のまま逃げて帰ろうかと思ったわ」と後に孫の絵里子(司の一人娘)に冗談交じりに語っていたという。
 結婚を機に夫婦は金島村を離れ、福岡市に居を構えた。

(つづく)
【坂本 晴一郎】

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