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諫早開門義務不履行に抗議(後)~漁民・農民・防災共存の道
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2013年12月27日 07:00

 開門を求める漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長は、開門を差し止めた長崎地裁の仮処分決定を、こう解説する。
 「決定の内容は、被害が起きないように対策をしない開門をしてはならない、だ。有明海で大変な漁業被害が起きている。ただちに改善しないといけない。だから開門しなければいけないというのが、高裁判決の義務。答えはたった1つ、被害が出ない開門をしなければいけない」。

 干拓地営農者たちにとって、農業用水確保や湛水被害防止は切実な問題だ。農水省の無策によって被害が生じたのではかなわない。
 干拓地や背後地など、いわゆるゼロメートル地帯の湛水被害対策は、開門するかどうかにかかわらず必要な対策である。農業用水にしても、調整池の水は、農業用水基準をクリアせず(2008年時点)、06年以降、アオコが発生し、猛毒のミクロシスチンが検出されている。代わりの水源を確保するより、調整池の汚れた水を農業に使い続けたいというのか。事前対策が取られ、被害が生じなければ、開門に反対する理由もない。「反対のための反対」ではないはずだ。

<「反対のための反対」「絶対反対だから反対」なのか>
 では、もう1つのカギの中村法道・長崎県知事はどうか。
 中村知事は、住民らの不安に応えるかたちで、約100項目の問題点を挙げて、国の見解を正すなど、開門に強硬に反対してきた。「開門するかしないかの二者択一だ」と発言している。
 開門するか、しないか、といっても、原理主義的な争いや宗教戦争、民族紛争がたたかわれているわけではない。
 「開門すべきではない」という知事個人の見解を述べることに問題はないとはいえ、県知事には、憲法順守義務がある。公人として、県の税金を使って、国に対し確定判決を守らないという憲法に反する行為を求め続けているとは、考えにくい。県庁職員を経て行政のトップの座に就いた中村知事が、「法の秩序」を守らないわけがないだろう。
 将来起こるかも知れない県民への被害を防ぐために、住民のあらゆる疑問、問題点を国にぶつけ、トコトン解消しようという住民本位を極めた類まれな行動だといえる。"駄々っ子"のような「反対のための反対」「絶対反対だから反対」ではない。あくまで干拓地営農者らを守る護民官として、当然の責務を果たしているだけに違いない。
 実に立派である。「反対のための反対」以外に正当な理由があれば、中村知事も行きつく先は、長崎地裁の仮処分と同じである。被害が生じない対策を国に講じさせれば、開門に支障はなくなる。

開門を促すために制裁金を申し立てた原告漁業者・弁護団ら=12月24日、佐賀地裁前

<制裁金によって国・農水官僚に判決を守らせる>
 開門を求めてきた原告漁業者は、「佐賀と長崎の対立ではない。ましてや漁民と農民の対立ではない。漁業と農業、開門と防災は両立する」と言い続けてきた。
 出口のない袋小路を作り出した元凶は、開門対策を3年間サボってきた農水官僚だ。

 日本の官僚は、水俣病訴訟をはじめ公害訴訟・国賠訴訟などで、たとえば「水俣病の認定基準がおかしい」と国の間違いが裁判所の判決で指摘されても、「申し付けられたのは、主文だ」「主文を受け入れている」として、判決理由などの判決内容は守る必要はないという対応をとってきた。官僚は、行政の根幹には絶対に手を付けさせない。
 有明海をめぐっても、福岡高裁の確定判決が、諫早湾閉め切りと漁業被害の因果関係を認めても、それは主文ではないので、裁判所に従う義務はないと言っているに等しい。官僚たちは、3権分立を横目で見て、自分たちがあたかも「国の主人だ」という姿勢で来た。その結果、「開門せよ」という主文さえ守らないという傲慢な事態をもたらした。

 福岡高裁で勝訴した佐賀県、長崎県の原告漁業者49人が確定判決にもとづいて、1日1億円の制裁金の支払いを国に課すように佐賀地裁に求める間接強制を24日に申し立てた。司法の強制力で、言うことを聞かない国をねじ伏せる狙いだ。支払われた制裁金で基金をつくり、有明海を再生させ、「宝の海」を取り戻すための調査研究・運動にあてるとしている。
 長崎県有明漁協の松本正明組合長は、「農水省は漁業被害をいまだに認めない。元の有明海に戻す運動をしていく」と語る。確定判決を守らず、被害を受け続ける漁業者を見捨てる国をこのまま放っておくわけにはいかない。
 佐賀県太良町のタイラギ漁師、大鋸幸弘さん(57)は、訴えた。「農水省は3年間何もしないで、我々を愚弄してきた。この悔しさをぶつけていく」。

(了)
【特別取材班】

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