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未来トレンド分析シリーズ

アジアの動向と日本のとるべき道~日本的自由貿易協定の探求(4)
未来トレンド分析シリーズ
2014年1月 6日 07:00

<対米と対アジア両方をにらんだ国家戦略で日本こそ主導権握れ>
 こうした複雑な様相を示すアジア太平洋地域の将来を占うには、リアリスト、リベラリストの立場に関係なく、現実的かつ柔軟な発想の翼を広げることが肝要となろう。日本が新たな国家戦略として、東アジアの経済統合に向けたイニシアチブを発揮することが望まれる。

 実は、1990年に日本との関係を最重視するマレーシアのマハティール首相が「東アジア経済協議体(EAEC)構想」を提唱したことがある。この通称「マハティール構想」は、欧米や中国ではなく、日本を事実上の中心とする多国間の自由貿易圏構想であった。しかし当時の日本は、欧米先進諸国に対する配慮を優先し、かつ戦前の大東亜共栄圏の悪夢を連想させること危惧し、こうした新たな経済圏を生み出す動きには一歩踏み出すような選択は行なわなかった。そのため現在、TPPの交渉加盟国のなかで、ASEANから参加しているのは、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナムだけであり、いずれも相対的に経済的中小国に限られている。
 さらなる問題は、アジア太平洋地域と言いながら、アジアの主要国がほとんど参加していないことである。これでは、地域の繁栄や平和と安定にも限られた影響しか行使できないで終わる可能性が高い。インドやタイ、そしてインドネシアも参加していない。韓国は参加の可能性を遅まきながら表明したものの、中国が参加する可能性は今のところ視野に入ってきていない。それどころか、中国は人民元の経済圏拡大を狙い、インドシナ半島を中心に新たな経済ブロックの創設に邁進している。

farm.jpg 要するに、日本を除けば、TPPといえどもアジアの主要国抜きの経済的枠組みに過ぎず、これではアジア太平洋地域の活力を取り込む地域的FTAとしては腰砕けと言っても過言ではない。こうしたTPPのような多国的FTAが機能するようにするには、各国のより柔軟で相互にセンシティブな分野に配慮するという姿勢が求められよう。参加国の個別かつ多様な事情を認識した経済連携のかたちを模索しなければ、現状の二国間、地域内の経済システムに代わり得るようなかたちにはならないだろう。
 日本はその意味で、TPPと東アジアという2つの自由貿易交渉を主導できる可能性を秘めている。関税ゼロという先進性の高いTPPをテコにし、RCEPのような広域かつ各国の立場を尊重した自由貿易協定の水準を引き上げることも可能となる。とりわけ「ASEANプラス3」や「ASEANプラス6」を通じて、中国をこの自由貿易協定に組み込むことができれば、知的財産権のルール化を通じ、この面で国際的に避難を浴びている中国の違反行為を防ぐことも可能になると思われる。中国の暴走の恐れは、多くの国が共有するものとなりつつある。
 その一方で、TPP交渉に見られるような、アメリカの一方的な要求をある程度かわすかたちで協議を進めることも選択肢に入れることが必要だ。日本にとっては、TPPの意図する自由貿易の枠組みは、将来の発展にとって欠かせないものであるが、現在のように、アジアの主要国が参加しないかたちのTPPでは、日本の国益の確保にはつながらないことは明らかである。なぜなら、日本経済にとってはアメリカとの関係は不可欠であるが、同時に、中国やインドといった国々との自由貿易圏の構想も欠かせないからだ。

 リアリストが懸念する経済軍事的な対立を回避しつつ、リベラリストが描く経済共同体の実現に横たわる困難な条件を冷静に判断し、日本が主導的な役割を果たすことで、この地域における平和と安定、そして繁栄がもたらされる。そうした積極的な平和経済外交を日本は模索すべきだと思う。今こそ、「バランス・オブ・パワー」を超える発想こそが求められる。

 その意味でも、防空識別圏をめぐって高まる日中間の緊張を解く工夫が求められる。
map.jpg グローバルな緊張緩和に向けて、米中間のトップ同士が頻繁かつ徹底した接触を重ねているのに比べ、我が国の対応はあまりに腰が引けている、と言わざるを得ない。たとえば、オバマ大統領と習近平国家主席はカリフォルニアで2日間、8時間の直接対話をこなし、バイデン副大統領は習主席と北京で5時間の協議に臨んでいる。いずれも、個人的な信頼関係を築くことで、最悪のシナリオを回避しようとする試みに他ならない。
 一方、我が国と中国とのトップ同士の対話はほぼ皆無に近い。安倍総理は習主席とたった数分の挨拶をしたことがあるだけ。岸田外相は王毅外相とは会ってもいない。水面下で打開策を模索する動きでもあればまだしも、そちらも凍りついたままである。安倍総理は「対話の窓は常に開けてある」と繰り返しているが、「相手の窓を開ける」工夫を凝らす必要があるだろう。日中双方にとって、環境やエネルギー問題が一層深刻さを増す2014年がそのきっかけとなることを願うものである。

(了)

≪ (3) | 

<プロフィール>
浜田和幸氏浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。


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