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なぜ家畜のように扱われることに耐えるのか!~「少年スポーツ ダメな大人が子供をつぶす!」永井洋一著(朝日新書)
書評・レビュー
2014年1月15日 07:00

<「2020年東京五輪」決定で、体罰が増加する?>
 2013年1月8日に大阪市立桜宮高校のバスケットボール部顧問の暴力事件に端を発した中・高・大学等スポーツ部の「体罰事件」報道は、昨年末の12月まで途切れることなく続いた。大きなものだけでも、1月に3件、4月に2件、6月に1件、9月に2件、12月に2件あり、その主役は、駅伝の強豪豊川工高陸上部監督、柔道女子日本代表監督、甲子園の常連PL学園高野球部上級生、元Jリーガーにまで及んだ。
 驚くことに、昨年9月に「2020年東京五輪」が決まった為、今後さらに増えるのではないかと危惧する識者も少なくない。暴言、罵倒、威嚇、無視、放置といった形で精神的苦痛を与えて選手をコントロールしようとする指導方法は、日本のスポーツ界では日常化しているからである。

<本来のスポーツ活動として不適切なものがある>
 永井洋一氏は、スポーツジャーナリストである。同時にサッカーコーチとして幼児から社会人まであらゆる年代の指導経験を持ち、現在もNPO法人サッカークラブ代表として指導の最前線線に立っている。
 本書は、なぜスポーツ指導者はすぐ殴るのか?(プロローグ)~勝利至上主義とマシン化する子供たち~理不尽な指導者と愚かな親~世にも奇妙な日本的スポーツ環境~スポーツ系部活動のかかえる闇(第4章)で構成されている。

 永井氏は、本書を通じて、これまでスポーツ関係者が「普通、当たり前、そういうものだ」と捉えて疑問をはさまなかった日本のスポーツ界の事象の中に、本来のスポーツ活動としては不適切なものがあるということを、指導者、選手、親の心理を分析しながら、明らかにしている。

<責任をとる立場から逃げ、心理的負担を軽減>
 日本の少年スポーツの現場は、暴力的行為そのものに"快感"を感じるサディスト的行動性向が強い人々の安住の地となっている。指導者は「選手たちに勝たせてあげたい」と語るが、その本音は「私が勝ちたい」に過ぎない。

 一方、選手は、なぜ家畜のように扱われることに耐えるのか。それは「選手として指導者に生殺与奪の全てを握られている」ことが大きな原因と言われている。しかし、著者は、
さらに、現代の少年たちの「習い上手な人生」の影響を指摘する。強力なリーダーシップに無条件に従うことによって、自ら責任をとる立場から逃げ、心理的負担を軽くしているのである。

 少年が指導者に従属してしまう構図は、悪質な非宗教家が、病苦など困難を抱えた庶民の弱みにつけこみ、怪しげな水や壺などを高額で売りつける詐欺まがいの商法に似ている。「魂の救済」を「勝利」と置き換えれば、オウム真理教となんら変わらない心理的拘束関係が成立する。

<信念や自信がなく、指導者に丸投げしている>
 では、親はなぜ自分の子供がこのように扱われることに耐えるのか。それは、親自身に「胸を張って言い聞かせるほどの信念や自信がない」為、指導者に子供を丸投げしているのだ。特に、良い学校、良い企業という「成功モデル」に偏差値では逆立ちしても歯が立たないとわかった瞬間、今度はスポーツでそのレールに乗れないかと考えるのである。
桜宮高校では、衆知に暴力が事実だった環境で、18年間も指導が許され、事件後も「気にせずこのまま指導を続けて欲しい」と言う親が少なくなかったと言われている。

<世界共通「精神力」と日本「根性」との違い>
 トップアスリートの世界では、今や科学的裏付けのある合理的トレーニングで最大の効果を追求していかねば、世界の舞台では太刀打ちできないことは常識だ。世界共通の「精神力」と日本のスポーツ界で使われる「根性」とは全く違う。日本では、技術、戦術、体力というスポーツの三大要素のすべてに劣っていても、「根性」があればそれを補い、勝てるというバカな神話さえある。

 最後に、著者は、指導者とか親の「足らざる」部分を覆い隠すために「理不尽」を正当化し、子供を犠牲にしてはいけないと訴え、その上で、明日からすぐ「社会の常識の原点に立ち返れ!」と結んでいる。

【三好 老師】

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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2013年10月 8日 15:34
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