<「未来の通貨」はどこに消えた?>
ビットコイン・バブルが弾け、「未来の通貨」の取引の中心だった市場が崩壊した。
インターネット上の仮想通貨ビットコインの取引所を運営するMTGOX(マウント・ゴックス)(東京・渋谷区)は2月28日、東京地裁に民事再生法を申請し、経営が破綻した。負債総額は約65億円。
それとは別に、顧客から預かったコイン75万枚(時価410億円相当)と、自社で持つコイン10万枚(約55億円)の大半がなくなった。さらに顧客から預かった現金のうち、約28億円も同社の銀行口座になく、消失しているという。
マウント・ゴックスでは、利用者は仮想通貨をやりとりするため、自身の口座にお金やビットコインを預ける。同社は、ビットコインがハッカーから「金庫破り」に遭って盗まれていたと強調した。サイバー空間の強盗劇というわけだ。返還を求めている顧客数は12万7,000人いるが、日本人は1%にも満たない。
<送金コストがゼロに近くなるビットコイン>
ビットコインは、2009年に誕生したネット上の仮想通貨だ。開発者は日本人「中本哲史」を名乗る人物とされている。仕組みは難解なので、門外漢にはちんぷんかんぷんだが、ビットコインの特徴として指摘されているのが、国際送金コストの安さだ。
現在の送金コストは、先進国でも送金額の2~3%だが、これがゼロに近くなる。途上国への送金コストは、先進国よりさらに高い。ビットコインで送金できるようになれば、出稼ぎ労働者にとっては大きな福音だ。
ビットコインは、国家のない通貨なので、ビットコイン自体の売買益も含めて課税が不可能だ。ビットコインは、現在の国家通貨体制に挑戦する「未来の通貨」と喧伝された。
国家からの反撃もある。マネーロンダリングや麻薬など不法なものに購入するときに使われる懸念があり、米財務省は13年3月に仮想通貨の規制指針を公表。取引所は規制の対象とし、登録を義務付けた。
<ビットコインが投機対象になり大化け>
マウント・ゴックスは、09年にジェド・マケイレブなる男が設立したゲームカードの交換サイトで、10年7月からビットコインの仲介業務を始めた。ビットコイン専門の取引所と報じられているが、ビットコインをドルに換金する両替業者と理解した方がわかりやすい。
当時のビットコインの価格は1ドルくらいで取引量もわずか。たいした儲けにもならず、11年にマウント・ゴックスを売却した。買ったのが日本在住のマルク・カルプレスというネットオタクの若いフランス人だ。マウント・ゴックスの民事再生法を申請後、記者会見したのがこの人物だ。
同社は、ビットコインが投機対象になったことから価格と取引量が急拡大。ネット上には20程度のビットコイン専門の取引所があるが、マウント・ゴックスは13年夏頃には、全取引量の7割を占めるまでになった。同社を最大手の両替商に押し上げたのは、"ビットコイン・バブル"だった。
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