旅館経営の「有限会社益田国際観光ホテル島田家」(島根県益田市本町3-15、設立昭和59年11月、資本金1,000万円)は、4月1日付で松江地方裁判所益田支部より破産手続の開始決定を受け倒産した。負債総額は約3億2,400万円。破産管財人には羽柴貴宏弁護士(益田市乙吉町イ342-1 第一 ビル209)が選任された。
島田家は天保13年(1843年)の創業以来170年の歴史を誇る老舗旅館で、収容人数は50名。北原白秋、西條八十とともに童謡界の三大詩人と謳われ、代表作『十五夜お月さん』で有名な野口雨情も宿泊し、「いわみ益田はなつかしところ 水も枕の下をゆく 島田楼にて」の句を残している。1994年11月には天皇、皇后両陛下が宿泊されたこともあり、地域では由緒ある旅館として知られていた。
益田市は万葉歌聖の柿本人麿の生誕・終焉の地として知られおり、また各地に名園を残した雪舟も七尾城主益田兼堯の招きにより、文明年間(1469~1486)に宗観寺(現在の医光寺)の第七代住職となった。医光寺と万福寺に雪舟庭園を造営。現在その遺構は国史蹟および名勝に指定されている。兼堯の死後一時周防の雲谷庵に帰っていたがその後再び益田を訪れ、東光寺(現在の大喜庵)に入って晩年を過ごし、永正三年(1506)に87歳の生涯を閉じたと伝えられている。
島田家は最盛期の1998年7月期までは観光客の宿泊や地元企業等の宴会利用などで、年間2億円を超える売上高を計上していたが、その後バブル崩壊による景気低迷や建物の老朽化による客足の減少で業績は悪化の一途をたどり、2013年7月期には売上高は約7,000万円にまで低下。資金繰りの行き詰まりからやむなく今回の措置となった。
今年1月31日には安倍総理のお膝元、山口県長門市にある湯本温泉の老舗ホテル「白木屋(しろきや)グランドホテル」(白木清司社長)が、山口地裁から破産開始決定を受け倒産。負債総額は約22億7,000万円。長引く不況の影響を受けて資金繰りが悪化したもので、島田家と同様に名門の老舗ホテルが150年の歴史に幕を閉じている。
アベノミクスの好景気に沸く片隅で、山口県や島根県だけではなくこれからも地方の老舗ホテルは静かにその命脈を閉じていく運命にあるのかもしれない。
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