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ホワイト企業へのパラダイムシフト
書評・レビュー
2014年4月21日 07:00

ホワイト企業(高橋俊介著・PHP新書)

<具体的にどうしていいかわからないのである>
 ブラックと呼ばれる企業のなかには、確信犯的に「人は使い捨てでいい」と考える企業がある。その一方で、経営者や幹部が人材育成は重要だと思うものの、「具体的にどうしていいかわからない」企業も存在する。著者は後者の方がむしろ多いと考えている。それがこの本を書いた動機の1つとなっている。
 「ブラック企業」が人を使い捨てにする企業とすれば、「ホワイト企業」は初期キャリアにおいて若者を成長させる企業、働きがいのある企業、さらには社会における雇用の質を向上させる企業である。

<沖縄で日本最先端の矛盾や問題が起きている>
 高橋俊介氏はキャリア開発や組織の人材育成研究に関する日本の第一人者である。日本国有鉄道(現JR)、マッキンゼー・ジャパンを経て、日本法人ワイアット(株)(現タワーズワトソン)社長を歴任。現在は慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授で、内閣府沖縄振興審議会委員として那覇シティキャンパスを立ち上げている。

 本書が過去の高橋氏の本と趣を異にするのは、沖縄(3月28日に国家戦略特区「国際観光拠点」になった)を「周回飛ばしのトップランナー」と呼び、強く光を当てている点である。今、沖縄で日本最先端の矛盾や問題が起きている。だから、最先端の人材育成ノウハウを投入しなければ問題は解決しない。輸出型製造業の大手企業で蓄積された使い古しの人材育成ノウハウをそのまま沖縄に持って行っても効果がほとんどない。
 そして、今後、日本全体が沖縄のようになっていく。それは、製造業がほとんどなくなり、日本全体がサービス業化していくことを意味する。

<日本全体で産業のサービス業化が進んでいる>
日本全体で産業のサービス業化が進んでいるのは事実である。2009年から12年の間で、従業員が増えた産業は「医療・福祉」(11%増)のみで、残りの産業はすべてマイナスで「製造業」はマイナス4.1%である。
 沖縄には製造業は食品など一部の内需型産業しか存在しない。その沖縄で今、雇用の伸びを支えているのは、介護福祉や観光、そしてシェアードサービスやBOPなどのサービスITである。この10年で、コールセンターやシェアードサービスだけで約3万人の新規雇用が生まれている。

<上司・先輩と部下・後輩の関係では機能しない>
 日本は戦後の高度成長のなかで、輸出型製造業を中心に、タテ型OJTという企業内人材育成に過度に依存してきた。その為、「個別性」の高いサービス業における中堅・中小企業主体の人材育成のノウハウがない。日本特有の新卒一括終身雇用やピラミッド型人員構成、キャリアパスを前提とした、上司・先輩と部下・後輩の関係は、もはや機能していない。

 この問題を解決する為に、高橋氏は以下の3つの考え方を提案している。

(1)タテだけでなく、ヨコやナナメの関係で「みんなで育てる」「学びあう」発想が必要。
(2)「個別性」が高いサービス業特有の"感受性"や"応用力"を育てる人材育成が必要。
(3)企業の強みを支える人材育成、"その会社らしい"独自性の高い人材育成が必要。

<人材育成のパラダイムシフトは不可欠である>
 すでに米国や欧州では、「ホワイト企業」(働きがいのある会社、雇用の質の高い会社等)をどういう基準で見ていくか、その枠組みが出来上がっている。代表的なものはイギリスサッチャー政権下にできた企業組織認証制度IIP(Investors in People)であり、他の1つは米国発の評価基準GPTW(Great Place to Work)である。後者においては、数年前から、日本版が実施され「働きがいのある会社ランキング」と呼ばれている。
 沖縄県で2013年に導入された「人材育成企業認証制度」もIIPのようなものである。

 今、まさに日本企業の人材育成、日本社会における人材育成は根本的な転換が求められている。「ブラック企業」を減らし「ホワイト企業」を増やすためには、こうしたパラダイムシフトが必要かつ不可欠である。

 最後に著者は、個別企業単位の努力を加速させる意味でも、社会として、地域として「ホワイト企業」を増やしていくことの必要性を説いている。そうした経営者を育てる為の育成プログラムの成功例として、KAIL(九州・アジア経営塾 The Kyushu-Asia Institute of Leadership)を紹介している。同NPOでは、サービス業比率が高い福岡で、地元から優れた経営者を生み出し、しかも九州だけでなくアジアまで視線を広げることを目指している。10年以上にわたり、週末を使って年間220時間を超える質の高い研修を行ない、人材を輩出している。

【三好 老師】

【注1】IIP(Investors in People):1991年、英国のサッチャー政権下で「英国病」といわれる国民の勤労意欲低下や社会保障負担の増加が起きた際、これを克服するために生産向上が不可欠だという問題意識から始まった企業(組織)認証制度。

【注2】GPTW(Great Place to Work):「働きがい」に関する調査・分析を行ない、一定の水準に達していると認められた会社や組織を有力なメディアで発表する活動を世界40カ国以上で実施している専門機関。

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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