オバマ訪日で見えた日米関係の今後と
あるべき「文装的武備」という日本の安全保障
<米国の宿題に答えを書く外務官僚>
そもそもアメリカはシリアへも軍事介入をせず、クリミアにも軍隊を送っていない。それはウクライナやシリアが米国の同盟国ではないからだと言われればそれまでだが、無人の岩礁を守るために米国兵士が血を流して防衛することはまず考えられない。米議会がそれに容易には納得しないからだ。
もちろん、航行している米艦船が攻撃されたり、沖縄の在日米軍に中国が攻撃を仕掛ければ、話は別だが、そこまで中国もバカではない。
尖閣諸島の防衛は、アーミテージもかつて著書で語っているが、ひとえに自衛隊の仕事であり、米軍はせいぜいそのモラルサポートをする程度だろうし、あるいは軍事衝突が一旦起きた後に米国は外交的に仲裁してやる、という程度の関与しかしないだろう。
日米安保条約第5条は、NATOの根拠である北大西洋条約の第5条とは根本的に違う文章になっており、「日米は共通の危険に対処する」とは書かれているが、国連憲章に基づく集団的自衛権、すなわち明確に軍事力の行使を決めたものではない。
沖縄本島を守るためならともかく、米国が尖閣程度で軍隊を派遣して一緒に戦うことはない。あるとすれば、このような政治的ステートメントが同盟の結束を高め、中国に対して心理的な抑止的機能を持つという程度の話だが、これでどの程度中国の領海侵犯が防げるかは成果は未知数である。
かたや日本は「グレーゾーン事態」においても米軍の対処を期待するし、一方でアメリカ側はできれば尖閣諸島をめぐる日中の争いには巻き込まれたくない。
集団的自衛権の行使容認も、武器輸出三原則の見直しも、アメリカにしてみれば、米国の基幹産業であるところの軍需産業の利益確保のためのツール程度の意味しか持たない。
そしてすでに述べたように、日米首脳会談で取り扱われ、共同声明に盛り込まれた主要課題は、アーミテージ・レポートが2012年に要求したものばかりなのだ。
要するに、外務省はこの宿題に対する答えを提出することだけを目的にしてきたのである。言い換えれば、日本の外務省は自ら外交の戦略目標を設定することすら出来ず、やっていることはひたすらアメリカが出す宿題に対する答案を書きまくっているということでしかない。その答案もアーミテージ・レポートと全く同じ。
日本外務省というエリート集団が、STAP論文騒動を生み出した日本の知的環境そのものなのだ。小保方晴子という一若手研究者や理研だけを批判してもしょうがない。
このアメリカのジャパン・ハンドラーズが出してくる課題をひたすらこなすという姿が変わらない限り、日本の外交はいつまでたっても自立できないだろう。大学の指導教官(アーミテージ)の意向を忖度しながら論文を仕上げる大学生(日本の外務官僚)という構図が浮かび上がってくる。ここには何らの知的な新しさも、外国をうならせるアイデアも存在しない。「先生の言うことを聞く良い生徒」ということにすぎない。先生はこういう生徒を本当は軽蔑している。
それでは、日本外交が自立するということはどういうことなのか。以下で本題にようやく入ることができる。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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