台湾プロ野球を内野席で観戦すると、違和感を覚えることがある。「演奏している様子はどこにも見えないのに、トランペットが大音量で聞こえる」と。よく見るとスピーカーから流されている鳴りもの演奏。別収録された音楽を、さも現場で演奏されているかのようにスピーカーから出している・・・これが台湾プロ野球の現状だ。

　テレビ放送で見ると、あたかも「現場が激しく盛り上がっている」と錯覚する。客の減少を食い止めたい現場主催者側も「盛り上がっている感」を演出するのに様々な工夫をこらしている。多くの日本人が「台湾プロ野球」と聞いてイメージするのは「八百長事件」かもしれない。以前から八百長疑惑で選手が永久追放になるケースも出ており、日本でもたびたび報道されるが、特に日本でも注目された一件は「台湾球界で監督を務める日本人監督の八百長事件での起訴」だった。

　その日本人監督は、当初は「否認」していたが、１年以上の事情聴取や公判を経て帰国した。台湾では投手コーチなども歴任していたが、晩節を濁した形となった。しかし、台湾プロ野球を報道や現場などで目にし、取材していた関係者たちは一様に「本当に彼が八百長をやったのか？」と事件報道を懐疑の目で見ていた。あるスポーツジャーナリストは「状況的に『八百長』は成立しにくい。ただ一旦、報道に火が付き、球団側もそういう方向に流れ、彼をかばおうとしていない以上、誰も『異を唱える』ことができないムードになっていった」と話す。同時に「球団や連盟の『公式発表』というのは信用されていない。ただ、信用はされていないが、仕組みができあがっているため違和感はあってもつつく人さえいない」と指摘する。

　その球団からは別の選手も八百長疑惑によって球界から追放となった。その選手は台湾代表にも名を連ねる俊足好打のバッターだったが、一旦、当局や報道から疑いの目がかかると、「守ろう」「救おう」という大きな言論は形成されなかった。同じ台湾代表でプレーした他の選手に聞くと「その選手とは疑惑以降、連絡を取っていない。連絡を取ったり、激励したりすることもできたが、それをやると、当局から目をつけられ、自分の身も危なくなる」と話した。

　「火の粉を浴びたくない」「自分の身を守る」ことを主眼にするのは、異常なことではない。台湾球界で生計を立てている以上、ある程度、やむを得ないことなのだという。選手や監督に「疑惑」が起きた場合、同僚や関係者は「彼がそんなことをやったのか！」という驚きよりも「誰かのワナにはめられたのだろう・・・（でも、もう関われない）」という反応になるそうだ。

　八百長疑惑で逮捕され帰国した日本人監督に関しても「彼が本当にやった」と思っている現場の人間はあまりおらず、「『縄張り争い』『ポジション争い』に日本人が巻き込まれた」という見方が優勢だ。「タイミングが悪かった」と話す別チームの台湾人選手もいる。実際、彼の熱心かつ分析的な指導法に感謝をしている台湾人選手も少なくないと言う。

※記事へのご意見はこちら