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SNSI中田安彦レポート

国家戦略「文装的武備」を(後・3) 
SNSI中田安彦レポート
2014年5月16日 07:00

 オバマ訪日で見えた日米関係の今後と
 あるべき「文装的武備」という日本の安全保障

副島国家戦略研究所 中田安彦

<文装的武備を訴えた後藤新平>
 そこで、だからこそ私は、100年前に活躍した後藤新平の唱えた「文装的武備」という考え方をここで復活させたい。まず最初に重要な事を言っておくと、後藤新平という人はフリーメーソン結社のメンバーである。このことは綾部恒雄(故人)というユネスコの企画専門員もした日本を代表する文化人類学者の『秘密結社』(講談社学術文庫)にも書かれている事実である。
 医学者である後藤新平は台湾総督府民政長官や初代満鉄総裁、逓信大臣、内務大臣、外務大臣を努めて世界大恐慌の直前の1929年に亡くなった日本の政治家である。後藤は台湾や満州のような植民地経営、拓殖大学の発展に尽力したことからアジア派の政治家だと思われがちだ。

 ただ、後藤はもともと国際赤十字のネットワークでフリーメーソンになった当時の日本の最大級のパワーエリートであり、第1次世界大戦後まもなく2度目の訪欧米をよく知られた知米派の新渡戸稲造を通訳に従えて行なっている。欧米とも太いパイプを持つのである。外遊時には米欧の有力者と繰り返し会談を重ねている。当時の米メディアは「次の総理大臣」とか「日本のセオドア・ルーズヴェルト」ともてはやしたものだった。 

 日本国内における後藤のアジア植民政治家としての姿と、海外で知られる世界権力層との交わり。この2つには一見すると非常な「ギャップ」がある。しかし、政治家としての有り様を考えていけばそれはおかしい話ではない。

img03.jpg 日本の国家戦略というものは、「日本の国際社会における立ち位置を確保する」という主体的な行動に基づかなければならないのであり、特定の超大国の識者から指示を受けて、その宿題(例:アーミテージレポート)をこなすというあり方ではいけないのである。戦前の日本は第一次世界大戦が終わるまでは外交の方も順調に進んでいた。ところが、1915年に世界大戦の勃発に乗じて、中国に対して悪名高い「対華21箇条要求」を出した上、日本軍が中国大陸の山東半島の青島(チンタオ)に出兵して、列強から「利権を狙った火事場泥棒」と避難されたり、シベリア出兵を行なったあたりから雲行きが怪しくなってきた。シベリア出兵の尻拭いをしたのが後藤新平外相の仕事でもあった。

 青島占領を行なったのは、大隈重信内閣の外相の加藤高明で、この人物は典型的な外務官僚あがりの頭でっかちの無能で、その愚かさでは日露戦争講和のポーツマス条約に関わった小村寿太郎外相に匹敵するところがあった。当時の覇権国は大英帝国だったから、加藤高明はそちらの方ばかりを向いていたのである。まずイギリスの歓心を買うことがイギリス生活に慣れきった加藤の最大の目的となっていた。今の日本がアメリカの方しか見ていないのと同じである。

 加藤のライバルであった後藤は日本が東アジアで「自立」していくために、時に英米、時にロシア、清王朝と柔軟外交を行なった。小村寿太郎が国内の経済ナショナリズムの高まりに怯えて、一方的に破棄して米国の財界を怒らせた「満州鉄道の日米共同経営計画」にしても、米国の車両を採用するなどの提案を行ない、米国財界との協調を重んじた。満鉄経営は日本が行なうが、代わりに資材をアメリカに発注するという「名を捨てて実を取る」というやり口である。

 その一方で、後藤はアメリカと日本を天秤にかけていた清の外交官とも接点を持ち、時の実力者であった袁世凱に対しては「日支箸(はし)同盟」を提唱したりもした。後藤は、結局は加藤高明との国内政争に敗れていくのだが、日米関係と日中関係、日露関係のバランスのなかでしか日本の存立はありえないということを知っていた政治家だった。これはおそらく彼がフリーメーソンとして世界最高度の情報網を持っていたからだろう。

 日本人は現代のフリーメーソンのような三極委員会のような世界的な民間秘密結社やダヴォス会議のような国際的なネットワーキング組織には所属しているが、後藤新平のような政治的・経済的なセンスがまったく無いため、せっかくの人脈を単なる「御用聞き」の場とか「自分のビジネスの場」としてしか利用できない。

 後藤は、いたずらに軍部に権限を与えるのではなく、まずは民間の経済交流から各国との関係を深めていくという「文装的武備(ぶんそうてきぶび)」という考え方の持ち主であった。満鉄経営についても軍部の関与をひどく嫌ったと後に国際連盟脱退時の外相となった松岡洋右(まつおかようすけ)満鉄元社員が回想している。

 日中の「箸同盟」構想にも見られるように、後藤はやがて台頭する覇権国アメリカの影を感じつつ、あくまで経済的な相互依存を深めることを軸に外交戦略を提唱した。国際関係論という戦後のアメリカの学問では、リアリズムとリベラリズムという2つの潮流があるが、後藤はこの2つをバランスよく体現していた。
 
 現在、日本の政治家の中には、民主党の長島昭久氏や先日派閥を立ち上げた細野豪志氏に見られるように、安全保障におけるリアリズムを重視する政治家が続々出てきている。これは、端的に言えば勢力均衡(バランス・オブ・パワー)を重視する考えで、膨張する中国と日本の軍事バランスを現状のまま維持するか、あるいは圧倒して大国化する中国に日本が飲み込まれないようにするべきだという考えである。安倍首相とオバマ大統領の間で発表された日米首相会談後の共同声明でも、中国を念頭に「力による現状変更には反対する」という一節があるが、これはリアリズムの考え方における「現状維持勢力」と「現状変更勢力」の対峙という認識を色濃く持っているのである。

(つづく)

≪ (後・2) | (後・4) ≫

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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