言い方は悪いが、水商売の品物は「人」。とくにスナックやキャバクラは、接客サービスが問われる業種だ。とくにキャバクラ、クラブよりも店の規模が小さいスナックは、人の入れ替わりが少なく、少数精鋭でやっていかねばならない。ひとたび、店のスタッフの歯車が噛み合わなくなれば、売上にひびき、最悪、閉店に至ることもある。売上を持ったスタッフが1人辞めると、店にとっては大打撃だ。
某スナック店長は、ママの時給を下げる交渉をするため、どのように店の苦境を伝えるか苦慮していた。今春、店長を残して、店のスタッフが全員辞め、別に店を作るというクーデターが起きた。その危機を救うために、恩人の紹介で登場したのが今のママ。しかし、期待に反して売上があがらない。「私が月100万、ママが自称月50万でなんとかしのげるかという目算でしたが、フタを開けてみると、ママの売上が少なく、私が稼いだ分を食いつぶしている状況です」と店長。
語らずとも悟ってくれるなら、とっくに少しは改善しようという姿勢が見られるはずだが...。午後11時頃、客がいない店内奥のボックス席で、お茶をすするママ。しかも、ママの肝いりで入った若いスタッフ2人が脇を固める。売上ゼロでも発生する時給。「これで時給3,000円(ママ)ではたまらない!」と、店長の悲鳴があがった。
「ここに12坪の畑があります。地主に払う土地の賃料(家賃)が1万2,000円。ママの給料が1万2,000円。女の子たち3人の給料が1万8,000円で足すと4万2,000円になります。私が一生懸命たがやして、できた作物を売った代金(売上)が4万円です。つまり、この畑をやるのに、毎日2,000円ずつの赤字が出ます」。店長は、このたとえ話で勝負をかけるつもりだ。数字は6月実績の平均値をとったもの。当然ながら、店長の取り分は含まれていない。
女の子の管理はママの仕事なのだが、親分風を吹かせたいのか、客がいなくても早上がりさせず、閉店までお茶をすすらせている。ただ、座っているだけで時給が発生。そんなボロい仕事はない。その上、若者たちは「所詮、バイト」と店長に断言したほどで、水商売でガッツリ稼ごうという気概もなく、楽な方向(ママ)に身を任せている。
最も心配なのは、目の前の客から取れる分だけむしり取ろうという姿勢で、常連が店離れを起こしていることだ。「1回6,000円のお客でも気に入っていただいて月3回来ていただければ、1万8,000円。1回でドリンクを何度もねだって1万2,000円むしったら、次来なくなる。結果的に、売上はマイナス6,000円ですよ」という話もするつもりという。新ママを紹介した恩人の顔をつぶさないためにも、数カ月で「出て行ってくれ!」とは、言えないとのこと。店長の受難はまだまだ続きそうだ。
【長丘 萬月】
<プロフィール>
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。海上自衛隊、雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、働くお父さんたちの「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポート。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の風俗関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲に"ほぼ毎日"出没している。
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