ラオスの飲食店は通常1年契約で、1年分の店舗家賃を前払いする。だが、契約して1年後の契約更新の際に、大きな障害が出てくる。
もし、あなたが経営する飲食店があまり儲かっていない場合、大家さんは今までの料金で何も言わずに更新させるだろう。しかし、もしあなたの店が大きく儲かっている場合、大変なことになる――。
まず、1年後の更新時に家賃を倍に上げられることになる。ただ、それでも家賃が倍になるというだけなら、大きく儲かっているならば、まだ我慢することはできる。しかし、そのお店が傍から見ても本当に儲かっている場合、ほとんどのお店が大家によって乗っ取りの被害に遭うことになるのだ。
お店のきれいな内装、安定した顧客――。それらを見た大家は、自分が同じようなサービスを行なえば儲かると思い、さらには前々回に書いた「ビジネスで成功して認められたい」という承認欲が出て、自分がその店のオーナーとなって経営したいと考えるのだ。その結果、大家がそのお店を乗っ取るのだ。そうしてお店を失った日本人を過去に多く見てきたし、そういった話も多く聞いてきた。
ただ、そうして大家が飲食店を乗っ取っても、結局は飲食店経営のノウハウを持っていないため、2~3カ月で閉店するハメになる。そしてその後は、"幽霊店舗"として雨ざらしとなってしまうのだ。
なお、こうした大家からの乗っ取りを防ぐ方法として、前家賃で長期の契約を行なう飲食店もある。3年分、5年分と家賃を前払いしておき、開店から1年での更新時の乗っ取りを避けようというものだ。
ただし、私としてはこの方法はお勧めできない。というのも、今後も大きく経済発展していく可能性のあるラオスで、3~5年後も立ち上げ時の小さな店舗で経営していくつもりなのか?――ということである。この方法だと、逆に自らの発展を縛ってしまう可能性の方が大きいと私は感じる。
「店がきれいにリノベーションされているから、契約の更新時、値上げの要求か立ち退きを迫られるかも。これはラオスの常識」――。前々回の冒頭に挙げたこの言葉は、私もよく知っていた。かなり多くの日本人が、いや日本人のみならずラオス人でさえも、この問題に直面している実態がある。
そのため、私はそうなることを想定して、私が店舗の内装費として使ったのは、実はペンキ代の3,000円のみだった。自分のところのスタッフにペンキを買いに行かせ、スタッフが2~3日かけて店内を塗装した。ただ、それだと、当然のことながら店舗内装はそんなにきれいにできない。
しかし内装にお金をかけない分、店内に入れる家具にはお金をかけた。店内のソファは、1個1,500ドル。もちろんラオスでは手に入らないので、周辺国で購入した。家具は内装ではないので、たとえ乗っ取りの被害に遭ったとしても、新しい店舗に移転する際に、全部持っていくことができるのだ。
そして、先の言葉のようなことが、我々のところでも起きた。しかも、契約更新の半年以上前に、である。
まず、毎日のように大家が店舗に来るようになった。そして、あるときは「電気の工事が必要だ。電気工事代1,000ドル払え」との要求が。またあるときは、突然水が出なくなり、よくわからない水道の請求書をわたされ、払うまで水が出ないという事態が。さらには「火災の問題があるから外壁の工事を...」「ゴミが...」など、毎日難癖をつけにやって来て、そして「要求に従わないなら店舗に鍵をかける」と脅してくる。
そして極めつけは、大家自らが村の村長を呼び、話し合いをしたことだ。村長からの「大家さん、あなたが言っていることは変だよ」との一言に、大家さんは逆ギレして出て行った。
こういうことが続き、私たちはとうとう残りの契約を半分残して出て行くことを決断したのだ。
しかし「ピンチはチャンスである」。これは、元ヤオハンの和田代表より教えていただいた言葉だ。出ていくと決断した3日後、ラオスで1番の売上を誇るカフェからわずか30m離れた場所の物件が賃貸に出た。絶好のチャンス。即断即決で移転を決めた。次の店舗は1戸建ての家である。広さは、庭も含めて600m2。
ピンチは、次の発展への大きなチャンスであった。ただし...、内装はあいかわらずペンキだけである。
(了)
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現在、赤坂綜合事務所はラオスで、日本企業として初めてのサービスをどんどんスタートさせています。ラオスと日本企業の懸け橋となるよう、日々事業活動を行っております。
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