2024年03月29日( 金 )

【森友学園問題】子どもらが蚊帳の外に置かれた教育機関の歪み

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 今や、日本一名前が知られている学校法人といっても過言ではなかろう。大阪市の学校法人「森友学園」のことだ。

 同学園に関しては、大阪府豊中市の国有地が大幅に安く売却された問題や、政治家の関与の有無をめぐって、3月23日に同学園前理事長の籠池泰典(かごいけ・やすのり)氏の国会への証人喚問が実施された。しかし、この証人喚問で早期の幕引きを目論んだとされる自民サイドの思惑とは裏腹に、籠池氏の口からは数々の爆弾発言が噴出。安倍晋三首相の妻の昭恵氏から密室で100万円の寄付をもらったという証言が飛び出しただけでなく、昭恵夫人付きの経済産業省職員から籠池氏宛に“口利き”をうかがわせる内容のFAXが送られてきたことまでが暴露された。もはや幕引きどころの騒ぎではなくなり、野党からは昭恵夫人の喚問を要求する声まで上がる事態に――。これら森友学園をめぐる問題は連日のように取り上げられ、今なお日々新たな情報がマスコミをにぎわせている。

瑞穂の國記念小學院

 森友学園が今年4月の開校を予定していた私立小学校「瑞穂の國記念小學院」。3月24日に訪れたところ、大阪府豊中市にある同校の敷地は、周囲をぐるりと工事柵で囲われ、何人の侵入も拒んでいた。同校の施工を担当したのは、藤原工業(株)(大阪府吹田市、藤原浩一代表)。すでに木造2階建ての校舎建物の工事はほぼ完成しており、残るは校庭や植栽の整備といったところだが、認可の申請を取り下げたことを受けて工事は中断している。學院内に造営されるとされていた「瑞穂神社」については、土台らしきものは確認できたが、社殿らしき姿は見当たらなかった。

 同校の立地は、近くにある大阪国際空港の滑走路の延長線上に位置しているということもあって、現地では飛行機が頻繁に頭上を通過しており、多少の騒音が気にはなった。とはいえ、同校の周辺には隣接する大阪音楽大学のほか、豊中市立第十中学校、豊中市立野田小学校などの学校が狭い範囲内にひしめきあっており、道を挟んで向かい側の野田中央公園も含め、教育機関が新たに開設する場所としては、うってつけの立地といえよう。

 元々、同校の敷地となっている国有地をめぐっては、12年1月に大阪音楽大学が最大7億円で購入する意向を国側に示していたという。だが、国側は当時の時価9億円超での売却を希望した結果、価格面で折り合わず、同年7月に大学側は購入を断念した。にもかかわらず、それからわずか約1年後の13年9月、森友学園が同じ土地の取得を正式に国に要望したところ、16年6月に何と1億3,400万円での売買が成立。7億円での売却を拒否したにも関わらず、1億3,400万円では売れるという。これは、いったいどういったカラクリなのか――。
 森友学園が購入した際の1億3,400万円という価格は、同敷地に埋まっていた大量のゴミ撤去費用など8億2,200万円を減額したものとされている。一方で、この埋設ゴミは大阪音楽大学からの購入意向があった当時は、まだ見つかっていなかったという。何とタイミングの良いことだろうか。仮に、森友学園が購入意向を示した後に埋設ゴミの調査を行って値引きがなされたのであれば、大阪音楽大学の際には調査は行われなかったのか。
 また埋設ゴミの撤去費用についても、8億円という金額に整合性がないという指摘もある。一連の不可解な流れから考えると、この撤去費用金額自体が、初めに巨額の値引きありきで算定されたものと見られても仕方あるまい。

 そもそもの小学校の設置認可についても、不可解な点がある。森友学園が大阪府に申請していた小学校の設置認可をめぐっては、府の審査基準に抵触していた可能性があるにもかかわらず、府私学審議会で審議されていたことも問題になっている。私立小学校の認可に関する府の審査基準では、学校の土地は原則「自己所有」と定められており、例外的に貸主が国や地方自治体などの場合は認められることもあるが、借地の上に校舎を建てることはできない。しかし、15年1月に行われた府私学審議会では、府側が土地について、学園と財務省近畿財務局が10年間の定期借地契約を行ったうえで、その契約期間内に購入予約をすると説明。借地の状態で校舎を建てる見通しにもかかわらず、15年1月30日付で府私学審議会は「慎重審議の結果、条件を附して認可適当と認める」と答申した。この件について、府は審査手続き上の瑕疵はなかったと結論付けたが、果たして本当に瑕疵はなかったのか――。

 これらの国有地払い下げの問題や小学校の設置認可については、相当な立場の政治家や官僚が動かなければ、森友学園にここまで有利に事が運ぶこともあるまい。先の証人喚問での籠池氏の発言が真実であれば、まず真っ先に昭恵夫人や安倍首相の関与が疑われるところだ。それまであまり聞き慣れなかった「忖度」(そんたく)という言葉が今年の流行語に選ばれそうな勢いで乱用されているが、たかが一役人が忖度した程度で、こうも事態が動くことはないだろう。

塚本幼稚園

 さらに森友学園をめぐっては、運営する「塚本幼稚園」(大阪市淀川区)が特別な支援を要する園児の受け入れにともなう補助金を大阪府から不正受給した疑いで、府教育庁が17年度分の補助金を交付しないことを決定。塚本幼稚園では専任の職員を置くことなどを条件に、15年度までの5年間で大阪府から約7,000万円の補助金を受給している。大阪市が系列の保育園である「高等森友学園保育園」の保育士名簿を確認したところ、保育士として記載されていた6人が、塚本幼稚園の専任職員の名簿にも重複して記載されていたという。森友学園側が補助金を不正に受給していた可能性もあるとみて、大阪市は引き続き調査を行っている。

 森友学園と財務省近畿財務局が取り交わした契約では、3月末までに開校準備ができなければ、国は土地を買い戻すか、契約を解除することになっており、その際に森友学園側には校舎を解体して更地にする義務が発生するとされている。籠池氏は「建物は潰さない」と表明しているが、完成を目前に控えながらもストップがかかった状態の同校校舎の行く末は、今後どうなるのか。
 一方で、同校の施工を担当した藤原工業は、森友学園からの未払いの工事代金が16億円以上に上る見通しを明らかにし、そのうち支払期限の過ぎた約4億円の支払いを学園側に求める訴訟を大阪地裁に起こした。本来であれば3月中には建築費のうち計4億円が支払われる予定だったが、これが未払いになっており、訴訟ではこの金額を請求額とした。同社によると、籠池氏は実際には存在しない大阪府の「私学助成金」での支払いを明言していたとされ、虚偽説明による不法行為として、籠池氏個人に対する損害賠償請求も起こす方針。すでに藤原工業では代金の回収に充てるため、塚本幼稚園や籠池氏の自宅や土地の仮差押えを申し立てており、それが認められている状況だ。

 このように、今なお新たな問題が噴出し続けている森友学園。しかし、今回の一連の問題での最大の被害者は、巻き込まれるかたちとなった子どもたちだということを忘れてはならない。仮にも教育機関であるにも関わらず、子どもたちの存在が蚊帳の外に置かれた不毛な争いからは、主権者たる国民が軽視されがちなこの国が抱える歪みの一角が、垣間見えたように思えてならない。

【坂田 憲治】

 

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