2024年04月26日( 金 )

【緊急リポート】判決は、久留米市のずさんな建築確認を擁護!

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 13日、福岡県久留米市の分譲マンション「新生マンション花畑西」の構造・施工の欠陥をめぐる裁判の判決が福岡地裁で言い渡された。判決の内容は以下の通り。

■平成27年(行ウ)第9号、第39号 建築物建替義務付請求事件 判決(主文)
1.原告らの訴えのうち、主位的請求に係る部分を却下する。
2.原告らの予備的請求をいずれも棄却する。
3.訴訟費用は原告らの負担とする

■平成28年(ワ)第218号 損害賠償請求事件 判決(主文)
1.原告らの請求をいずれも棄却する。
2.訴訟費用は原告らの負担とする。

 この裁判においては、設計事務所による構造計算の偽装が明らかになっており、偽装を見逃して建築確認済証を交付した久留米市の責任が追及されていた。このマンションの構造計算書が偽装されていたにもかかわらず建築確認済証を交付したことについて、久留米市は、裁判の書面の中で、「建築確認は適切に行われていた」と驚くべき主張を行い、責任回避を図っていた。判決は、久留米市の荒唐無稽な主張を取り入れた判決と言え、判決言い渡し後、原告の区分所有者たちからは、「不当判決!」、「裁判所は市民を見捨てるのか?」などと怒号が飛び交った。

 原告の代表は、取材に対して次のように語った。
「この判決は、本件マンションの危険な状態や、近隣の市民にまで被害が及ぶという深刻な状況を全く考慮していない、不当な判決であり、納得できかねる判決です。
控訴については、これから、弁護士及び原告ら関係者で検討をいたします。
  近隣の市民をも危険な状態に晒しているという状態を解消しなければ、大地震が発生した場合、私たち原告は加害者となってしまいます。市民の安全な生活を守ることは、行政の重要な使命であり、私たちは、行政の使命を果たすことを求めたのであり、これに対し、久留米市は逃げ回り、裁判所さえも、市民の安全な生活を守ることを放棄してしまいました。私たちは、控訴するかどうかは別として、久留米市のずさんな建築確認の実態と、審査能力を欠いた久留米市のずさんな建築確認により危険な建物が久留米市内に数多く建設されている事実を、久留米市民、及び、全国に向けて知らしめる市民活動を、今日より開始することを宣言いたします。」

 このマンションの世帯数は92世帯、裁判の原告は61名であり、3分の1の世帯は原告に加わっていない。これら原告以外の区分所有者の持分に対して、行政が、建物の『除却』や『建替』を命令することは難しいという点は理解できる。個人の財産に対し取壊しを命じることは財産権の侵害にも成りかねないので、判断が慎重にならざるを得ないということだ。

 だが、マンションの耐震強度は35%しかなく、大地震により倒壊する恐れがあり、原告はその危険性を立証している。一方、久留米市(被告)は『建物は安全』ということを立証していない。久留米市の反論は、『建築確認通知書に綴じられている図面や構造計算書が本物かどうかわからない』という苦し紛れの詭弁であった。裁判所は、『除却』という判断を下すことを避けたいためか、久留米市の詭弁を採り入れた格好となった。

 このような裁判所の判決に対し、原告から怒号が飛び交ったことは、原告の心情を察すれば、当然である。判決は、行政が除却や建替を命令することを認めなかったが、「このマンションが安全である」とも認めていないのであり、原告からすれば、「耐震強度が35%しかなく危険なマンションで生活を続けろというのか!」と、怒りの声が噴出するのは当然だろう。

 判決における裁判所の判断の大部分は、被告側に偏ったものである。代表的なものを挙げると下記のとおりである。

・保有水平耐力計算におけるDs値は、建築基準法に保有水平耐力計算が取り入れられた1956年から規定されており、裁判所が「平成19年以降の証拠だから認められない」と切り捨てていることは、被告側に偏った判断であり、明らかに裁判所は誤っている。

・フープ筋に関する原告の指摘について、判決は、日本建築学会規準を、「建築学会の自主的な定め」と断定しているが、建築学会規準は、建築確認審査において、法適合の判断基準の一つとされているのであり、これを否定することは、建築確認制度そのものを否定することであり、日本建築学会及び国土交通省、そして、建築関係者全員に対する冒涜でもある。
 裁判所が、建築確認審査の指標の一つである日本建築学会規準を否定することは、司法が行政を否定しているも同然である。行政が定めた建築確認制度を司法が否定していては、建築設計に携わる者は、「何を根拠に設計を行えば良いのか?」、審査をする側も「何を根拠に審査をすれば良いのか?」混乱を来たすことになる。このような横暴が許されるのであろうか? 機会を見て、行政側の意見を聞く予定であるが、国が定めた制度を揺るがす大問題となることは間違いない。

・判決は、階段を仕切る雑壁(W12)を「耐震壁」と断定し、「耐震壁があるから、梁が施工されてなくても問題ない」と、裁判官独自の見解を述べている。被告でさえ、このような理論展開は行っていない。この壁は、柱と梁で囲まれておらず、壁厚としても耐震壁となり得ないし、仮に耐震壁であるとすれば壁符号は「EW12」となっていなければならない。裁判所は何を根拠に、単なる仕切り壁である雑壁を、強引に「耐震壁」と決め付けたのであろうか? 「耐震壁」の意味を理解していない裁判官が、耐震壁でない単なる雑壁を「耐震壁」と決めつけ、建物の危険性を訴える原告の主張を切り捨てることは、司法として許されざることである。裁判官は、「マンション居住者250名の人命に影響する」ということを、どれほど理解して判断を下したのであろうか? 単に、「司法と同じ立ち位置にある行政に責任が及ばないこと」だけを念頭に判決を作成したとすれば、地震が発生し、人的被害が生じた場合、役人至上主義の下に判決を下した裁判官の責任が問われることになるのではないだろうか? 少なくとも、被害者の遺族の怒りが裁判官に向かうことは間違いないであろう。

 裁判所は、「原告は立証を尽くしていない」と抽象的な言葉で切り捨てているが、原告は、十分に立証を尽くしているのである。「立証を尽くしていない」というのは、裁判官の主観に過ぎず、役人特有の便利な言葉で、結論づけたのである。マンション居住者250名、そして、近隣の多くの久留米市民は、司法からも行政からも『捨て子』にされたも同然である。

 裁判長から、「このマンションの区分所有者が、施工業者の鹿島建設や設計事務所の木村建築研究所に損害賠償を請求して提訴している、もう一つの裁判において、建替えなり、補強なり、損害を賠償してもらえばいいのではないか」と受け取れる発言があり、原告の怒りに油を注いだ。こちらの裁判は、4月14日、結審の予定である。施工業者らを相手取った裁判の行方に注目が集まる。

 原告が、久留米市に建替命令義務付を請求した訴訟は、恐らく控訴され、高裁において争われることになると思われるが、その裁判を通じて、重大な問題が浮上した。それは、久留米市が建築確認における審査能力を欠いていたため、このマンションの場合と同じく、設計における誤りや偽装を是正させることなく、建築確認を認め、誤りや偽装が是正されなかった建物が建設されていることである。その数は天文学的数字に上ると言っても過言ではない。大地震が発生した場合、久留米市内のいたるところで、建物の被害が発生し、人的な被害も避けられない状況となる。
 久留米市にとって、今回の判決は、責任を回避できた内容の判決として受け止めるであろうが、残された「ずさんな建築確認のため、強度不足の建物が無数に存在する」という大問題を、久留米市が解決しなければならない。今回の判決により、その実態を知った市民から、久留米市に対して、問合せが相次ぐであろうし、法的手段を講じるケースもあるかもしれない。この問題は、久留米市民の生命と財産に関わる非常に大きな問題である。久留米市が、市民のために、問題解決に真剣に取り組むことを望むものである。

 久留米市にある「水縄断層」で地震が発生した場合、「マグニチュード7.2、死者1万482人、全壊2万5572棟」という予想が出されている。耐震強度が35%のマンションがM7.2の地震に見舞われた場合、甚大な被害が生じることが容易に想定できる。久留米市の建築確認が、ずさん極まりなかったという事実を考慮すれば、予想の死者数1万人や全壊2.5万棟の何倍もの被害が生じる可能性は大いに考えられる。
 熊本地震から1年。大地震が発生し、甚大な被害が生じて、初めて、地域係数の問題がクローズアップされたように、久留米市を震度6強の地震が襲った場合、多くのマンションやビルが倒壊し、尊い人命が奪われて初めて、久留米市のずさんな建築確認審査が世に問われることのないことを願うばかりである。

 

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