2024年04月25日( 木 )

元「鉄人」衣笠氏が斬る!~若手の成長

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 今期の広島というチームを、他のチームはキャンプ時点でどのように見ていたのだろうか?
 昨年の25年ぶりの優勝を、単なる勢いで勝ったという見方をしていたチームが多かったのだろうか。セ・リーグの5球団の監督、フロントはたまたま投打がかみ合っての優勝という見方をしていたのかな。
 だけど今年は、黒田投手が引退してチームの精神的な支柱を失い、昨年と違って勢いはつかないという見方をしていたのかな。そして開幕戦でジョンソン投手が故障ということで、なおさら広島というチームを軽く見たのか。それとも広島に関わっている余裕が他チームになく、自分たちのチームの調整で精一杯なのかな。

 広島の若い投手陣をどこまで研究して来たのか、試合を見ていると考えてしまうような相手打者の打撃を見ることが多い。

 たしかに若くて、ボールは早くコントロールがない、打者からすると「危ない」投手である。打席のなかでどのボールに絞るかが難しい投手で、外角に絞って待っていてもなかなか来ない。捕手のサイン通りにボールが来ないのだから、打者がわかるはずもない。若い投手の一番怖いところである。
 だけど、脆さも持っているところが若さである。そのところをいかに突くか。相手を不安にさせるため、「バントの動作を見せる」「わざと大きな空振りを見せる」「明らかに右打ちを意識しているように見せる」――など、相手に考えさせるということをすることにより、自分のリズムが出しにくい状況をつくる。相手のペースで投げさせない工夫をすることが攻略の糸口になるだけに、打者は工夫をしたいと思うだろう。

 ただ打席に入り、いつもと同じように打ち、アウトになる。これでは若い投手も、自分のペースで投げやすいと思う。広島にとってはありがたいことだが、半面、これでは広島の若い投手が成長しない。試合を見ていると、長年プロ野球でプレーして来た選手たちに疑問を持ってしまう。

 そんな準備をして5球団のチームは開幕を迎えると思っていただけに、少し物足りない。

 たしかに開幕前の広島の投手陣を見てみると、不安だらけのスタートだったと思う。実績のある投手が少なく、ジョンソン、野村両投手が安定した投球を見せているが、まだ2年しか見ていないだけに、他球団からすれば「今年は十分に戦える」という感覚でスタートしたと思う。だが、黒田投手が抜け、投手陣のチャンスをもらった若手の投手たちは、他球団の若手と少し違うところを見せている。
 四球で苦しみ敗戦投手になっても、次の試合には見事に立ち直り、自分のボールを投げようと気持ちを新たにしてマウンドに上がり、勝利投手になる。他のチームの投手が前回の失敗を引きずっているのとは違い、実に鮮やかに気持ちを切り替えてマウンドに上がっている。この点は、見事というほかないだろう。

 セ・リーグの投手のなかでも、四球の多さではベスト5に入る投手が九里、岡田、加藤と3人もいるのに、である。同世代の投手が多いのも励みになっているのか、とにかくここに大瀬良、中村、薮田がリリーフ、先発と頑張り、現在はジョンソン、野村がいない投手陣だが、見事に勝利を重ねている。どこまで若手が出てくるのだろうか、他球団は心配だろう。

 打者にしてもそうだ、今年は「少しは苦しむかな?」と見ていた鈴木が見事に4番の役目を果たし、体調面で少し疲れのある新井選手をしっかり休ませている。安倍が頑張り、ときとして西川が見事な活躍をしてチームを勝利に向かわせ、松山が持ち前の長打で相手を凹ませ、育成のバティスタ選手を登録して使うと、代打2打席連続本塁打という見事な働きをして勝利に貢献。今年もまったく不安なく、見事に首位を走っている。

 以前は「苦手だ、苦手だ」と言われていた交流戦を、見事に勝ち進んでいる。パ・リーグの投手の攻め方を、しっかりとマークしているように見える。セ・リーグの投手はどちらかというと「かわす」投球術に長けているのだが、パ・リーグの投手は力で勝負を挑んでくる投手が多く、とくに内角に力のあるボールを投げ込んでくる。これがセ・リーグの打者を悩まし、迷わせているのだが、広島の打者はこのボールに対して「待ってました」とバットを振っている。当然、相手バッテリーは戸惑い、変化球で逃げようとするが、広島の打者の思うツボで捕まるというパターンが多い。「実に良く打っている」と、私だけでなく、他チームの監督はじめバッテリーは思っていることだろう。

 こうなると、怖いのは何だ?
 それは「故障」――これに尽きると思う。新しい選手が出て来て不足はないようだが、選手同士のつながりを考えると、初回から相手投手に襲いかかる田中、菊池、丸のトリオのつながり、得点機の鈴木、エルドレッド、安部のつながり、投手陣にしても今村、ジャクソン、中崎のつながりは相手チームに引導をわたす役目を果たす。
 ゲーム中盤に「どちらに流れるか?」という試合のなかで役割を果たす中田、一岡、薮田の投球は、見事というほかない。

 お互いが見事に自分の役割を果たしている。チームメイトであるが、「アイツに負けたくない」――と、この想いもあるだろう。いろいろなつながりを持ってチームは進んでいっていると思うが、今のカープは本当に強いだけに、反動も怖い。

 交流戦が終わったときにどんな数字を残しているか。今から楽しみになる今年の交流戦の出足である。

2017年6月9日
衣笠 祥雄

 

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