2024年04月20日( 土 )

【企業経営ワンポイント】お金に名前をつける

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相続財産で争わないために

IYASAKA CONSULTING(株) 玉井 省吾 代表取締役副社長

 相続が発生した場合、共同相続人同士で遺産をどのように分けるか話し合いが行われますが、これを「遺産分割協議」と呼びます。ただ、すべての遺産分割協議がスムーズに進むわけではありません。なかには親族同士で争いになることがあります。そこで今回は、すべての相続財産が分割協議の対象とならないということをお話しします。

 相続が発生した場合、遺産は「相続人の共有財産」と「受取人の固有の財産」に分けられます。多くの財産は前者で、土地・建物、株式などは、遺産分割協議の対象であり、誰がいくら受け取るのかを話し合いで決めます。

 一方、後者は生命保険の保険金で、保険契約者と被保険者が同一の場合、死亡保険金は遺産分割協議の対象外となり、相続財産ではなく、保険金受取人の固有の財産となります(これは民法上の考え方です)。つまり、被相続人の意志により、金融資産に名前(行先)をつけることができるのです。しかも、生前に死亡保険金受取人を指定することで、相続人に関する無用の争いを避けることができます。

 20年ほど前、資産家の未亡人より相続問題の相談を受けました。家族状況を整理しておくと、父(義父)、長男(義兄、配偶者あり、子どもなし)、次男(未亡人の夫、子ども2人、故人)の構成となります。相続対策として、義父との間で、実子2人のうち義父が可愛がっていた末子を養子縁組していましたが、数年後、突然義父が亡くなった後、夫の兄(義兄)との間で相続の争いとなったということでした。

 相続財産は、不動産(約3億円)と金融資産(約3億円)で、遺産分割協議はスムーズに進まず疲労困憊の様子でした。未亡人は夫と婚姻後、義父世帯と同居し、夫が亡くなった後も義父の面倒を見ていたため、それに感謝した義父は養子縁組を考え、資産の多くを孫に残す意向であったとのことでした。

 しかし、義父の死後、今まで義父の面倒を一切見ていなかった義兄が遺産分割に異議を申立て、相続の争いとなったようです。未亡人は、義父の死後まで義兄と争うことの苦痛に耐えられなかったそうです。

 その結果、養子縁組した孫に遺産の多くを遺したいという義父の想いはかなわず、相続財産約6億円のうち、義兄相続分3億円、孫2人(養子を含む)相続分3億円で折り合いがつきました。(法定相続分は、義兄2億円[1/3]、養子3億円[1/2]、孫1億円[1/6])

 今回のケースでは、義父が生前に金融資産の多くを生命保険とし、死亡保険金受取人を養子縁組した孫に指定しておけば、金融資産が「受取人の固有の財産」となっていたでしょう。つまり、金融財産(3億円)は共有財産から外れて遺産分割協議の対象外となり、生前の想いの通りに、養子縁組した孫のお金として残せたと思います。

 共有財産の不動産(3億円)だけが分割され、義兄相続分1億円(不動産)、孫相続分0.5億円(不動産)、養子4.5億円(不動産1.5億円+金融資産3億円)とすることができたと思います。

 事例を参考に、円滑な相続のために、保険金が「受取人固有の財産」となる生命保険を活用し、生前にお金に名前をつけてみてはいかがでしょうか。

<プロフィール>
玉井 省吾(たまい・しょうご)
1965年生まれ。長崎出身。88年、福岡シティ銀行入行。県内外の支店に勤務し、中小企業の法人営業を担当。事業者に対し、事業融資、経営アドバイスを行う。99年、外資系保険会社に入社し、ライフプランナーとして勤務。その後、保険を活用した経営コンサル業を開始。2015年より現職。
IYASAKA CONSULTING(株) 代表取締役副社長

 

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