2024年04月20日( 土 )

年賀状はなくなるのか?~老舗印刷所の破綻から見える文化の変遷

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 「年賀ハガキ」が姿を消す日も近いのか――。暮れも押し迫った22日、創業から100年を超える老舗企業が会社更生法の手続きを申請した。
 トキワ印刷(株)(所在地:福島県須賀川市)は、郵便ハガキなどの指定印刷工場として日本郵政グループから官製ハガキや年賀ハガキの受注を得ていた名門印刷会社。近年は2009年に約49億円の売上を計上したものの、17年には約33億円まで減少していた。積極的設備投資があだとなって資金繰りがひっ迫していたとみられる。

 年賀ハガキの発行枚数は、かつて日本の経済成長と軌を一にしてきた。戦後49年に2億枚弱でスタートした年賀ハガキは、人口増に伴って70年代には20億枚まで急増(garbagenews調べ)。さらに1980年代にヒットした家庭用プリンターの普及で一気に発行枚数を増やしたが、03年の約44億枚をピークに減少を続け、16年は約31億枚にとどまっていた。

 国民の8割近くがスマートフォンを所有している状況で、年賀状を送り合う必然性は年々感じられなくなっている。Eメールですらすでに過去のツールとなり、リアルタイムでつながるLINEやSNSの登場で、私たちはそれぞれの日常を手軽に共有できるようになった。
 かつてなら年賀状を送り合ったであろう人との心理的距離が近くなっていることも、年賀状文化にとっては逆風だ。進学や就職、結婚などで家族が離れた場合、これまでは電話や手紙くらいしか連絡手段がなかったため、年賀状は感謝の気持ちとともに近況を伝え合う恰好のしきたりだった。しかし、いまでは「子や孫とLINEでつながっている」シニア世代が普通に存在する。要するに「いつもつながっている」のだから、離れて暮らす家族が改めて近況を知らせ合う必然性がないのだ。家族の写真でも添えて「あけましておめでとう」のスタンプを送れば事足り、わざわざ年賀ハガキを買って時間をかけて文面やデザインを考え、投函するまでの手間をかける意味が感じられない。

 その一方で、年賀状文化の衰退と対照的に、国内ビジネスにおける「ペーパー至上主義」はまだまだ廃れそうにない。裁判所の事務手続きまで電子化され始めている世界の潮流に逆行するように、分厚い会議資料をきれいにまとめて定位置でホチキス留めできる技術が評価される世界は、もはやガラパゴスならぬ伝統文化の領域だ。
 実は、この原稿もいったん紙にプリントして担当者に渡している。ディスプレイで確認できるのに、紙に印刷する意味があるのだろうか。……年賀状を書かなくなる理由がわかった。

 

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