2024年04月20日( 土 )

日中ビジネス交渉人 徐静波の日本企業へのメッセージ

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 1997年から中国全人代を取材し始めて、今年で22年になる。おそらく、最も長く「両会」を取材している海外記者の1人に数えられるだろう。

 しかし今年はやや特別だった。まず、全人代側から在外華人の代表として全人代に参加するよう招待されたこと。このため、北京国際空港に到着した瞬間から、専用車、専用ターミナル、専用の付添人という身に余るVIP待遇を受けることになった。滞在先のホテルに到着してみると、中から外まで武装警察によって警備されており、特別な通行証がなければホテルに出入りできない状況であった。一般の宿泊客に滞在させない警戒レベルの高さは意外だった。

 今までは北京人民大会堂2階の記者席に座っていたのだが、今回は海外の代表として1階の代表者席につくことになった。しかも最前列のため、習近平主席との距離はわずか10mほど。これもあって、この年に一度の政治イベントに対する理解も以前より深くなった。

 今年の中国両会は会期が17日間と長かった。昨年10月の中国共産党第19回全国代表大会が、未来の中国の設計図を描いたものだとすれば、今年の中国全人代は施工図を描いた
といえるだろう。憲法を改正し、国家主席の「任期は2期まで」の制限を撤廃することで、習近平主席の長期政権のための憲法面の基盤が築かれた。

 しかし憲法改正案について投票を行った際、2票の反対票と3票の棄権票が投じられた。ハイレベルな政治的統一を求める全人代において、5人の人間が国家主席の任期延長に対し不満を表明したことは、ある意味、中国国会における「民主主義」的思想とシステムを示したともいえる。その晩のCCテレビのニュースでも、5人の反対と棄権は隠すことなく報道されていた。

 今回の全人代におけるもう1つのメインテーマは、国家と政府の構造を改革し、一部省庁を解体して「小さな政府、大きな社会」体制の確立を進めたことだ。中国の改革開放から40周年を迎える今年、この歴史的に重要なポイントで史上最大の機関解体を行うことで、さらなる改革開放を進めるという中国の決心を世界に示すこととなった。閉幕式における習近平主席の演説にも、今回の全人代は今後40年にわたる中国の発展のために堅実な基盤を築くものだという強い願いが現れていた。

 中央省庁再編により、中国政府の管理に2つの特徴がみられた。1つは中国共産党の指導力の強化だ。外交と海外居留民関係の事務、報道、出版を含めた指導権が、国務院から党の公報部・統一戦線部に移された。もう1つは、国務院の政策決定機関から執行機関への弱体化だ。国家の政策決定に関する権利は、新しく設立される複数の中央委員会を介して、党により直接制御されることになる。

 今回の全人代が開催された結果、習近平主席と彼の腹心である新国家副主席王岐山の手に、国家の権利が高いレベルで集中していることが示された。中国は実質的に「習近平王岐山体制」を構築しており、以前の「習近平李克強体制」はすでに存在しない。中国には大統領制の雛型がすでにでき始めているといえるだろう。

 これこそが習近平主席のいう「新時代」なのだ。そして、この新時代を安定して発展させることができれば、中国が世界一の大国になるための強力な後押しになるだろう。

 

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