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2017年08月03日 07:02

トルコで見た『正義の行進』100万人集会の背景と行方(後)

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 一方、エルドアン大統領は本年4月には憲法を改正し、大統領の権限をそれまで以上に強化することに成功していた。そのため、今回のデモ行進に関しても「正義を求めるというのであれば、選挙や国会での議論を通じて挙国一致体制を目指すべきだ」と主張し、彼らの求める正義の行進は「まやかしに過ぎない」と一刀両断に付している。
 そのうえで、クーデター未遂1周年の式典に顔を出し、「トルコは強い指導者のもとで国の再建を図らなければ未来はない」との演説を行った。そうした集会にもエルドアン大統領の支持者が多数集まっている。

 同じころ、アメリカのティラーソン国務長官がトルコを訪問。同長官のトルコ訪問の目的は、石油関連業界の国際会議で功労賞を受賞することであったが、その演説のなかでトルコの人々が危機的状況に対し、勇敢に戦っていることを称賛した。これはエルドアン政権を支援する意図を明確に打ち出したものである。クーデターという軍事的な手法によらず、民主的な国づくりに取り組むトルコにとって「当面の国家非常事態宣言は致し方ない」という判断を伝えたものである。

 しかし、民主主義を擁護する立場のアメリカのトランプ政権が、エルドアン政権による170以上の報道機関の閉鎖や、1,500を超えるNGOを活動停止に追い込み、100人を超える新聞記者を投獄していることには異議を唱えないということでは、あまりに一方的過ぎると思われる。とはいえ、先のドイツで開かれたG20サミットでエルドアン大統領はトランプ大統領と腹を割った議論を行ったといわれる。どうやら2人の大統領は意気投合したようだ。となると、強権派と民主派との対立は簡単には解消されないだろう。

 要は、トルコの将来をめぐって国内を分断する状況が生まれていると言わざるを得ない。エルドアン大統領に言わせれば、テロ対策をはじめ、国家が直面している危機的状況に効果的に対応するためには、必要に応じて強権的な、ある意味で自由を制限する措置も必要になるというわけだ。

 国内で頻発するテロリストの動きを封じ込めるためにも、国民の動きを日常的に監視し、不測の事態に備えることは、国家と国民の安全のためには欠かせないとの立場に他ならない。そうは言っても、表現の自由や行動の自由を制約される恐れを感じている国民は少なくないはずだ。とくに、知識階級と見なされる学者やジャーナリストの間では、そうした危機感が勝っているように見受けられる。

 実は、毎年、ギャラップ社が行っている「世界感情調査」(Global Emotions Report)によれば、「トルコ人の気持ちは年々暗くなっている」ことが判明している。たとえば、「あなたは昨日、笑顔を見せたり、声を出して笑いましたか」という質問に対して、昨年の段階では、トルコ人の半数が「前の日に笑顔で笑ったことがある」と答えていたが、今年の同じ調査ではそのように答えた人は38%にまで減少しているのである。
 どうしてトルコの人々はあまり笑顔を見せず、声を出して笑うことが少なくなってしまったのだろうか。単純に、エルドアン大統領の強権姿勢がもたらした結果とは言えないだろうが、その影響がまったくないとも言えそうにない。これから自国がどのように変わっていくのか、自分たちの生活が明るい方向に進んでいくのか、国民の多くが不安感を抱いていることの表れと言えそうだ。

 実際、エルドアン政権のもとで逮捕、拘束されている人々は、必ずしも昨年のクーデター未遂事件に関与が疑われた人々だけではない。LGBTと呼ばれる性的マイノリティの人々も対象となっている。トルコ政府の公式データによれば、2015年に投獄中に自殺をした人の数は43人であった。しかし、16年にはその数は66人に増えている。
 発言や行動が政府の気に入らないと判断された場合には、厳しい未来が待っているという不安感が広がっていることの表れであろう。現在、獄中にある人々のなかには、裁判官や検事といった立場にあった人々も数多く含まれている。報道によれば、クーデター未遂事件以前の4分の1にあたる裁判官や検事が、その職を奪われてしまった。そのため、現在投獄されている5万人を超える人々や、職を奪われた15万人の人々の、身分や権利を保護するための法的な仕組みが機能しなくなっていることが懸念されている。面会や差し入れも厳しく制限されている模様だ。

 筆者がイスタンブールで出会ったトルコ人の多くは、明るく、屈託のない人々であったが、壁の向こう側では多くの人々が自由を奪われているわけだ。彼らの気持ちを代弁するかのように、100万人もの群衆が「正義の行進」デモの最終ゴールに結集したのである。その思いを、どのように新たな国づくりに生かしていけるのか。強さだけでは反作用も大きくなるだけだろう。さまざまな文化や宗教を融合させ、共存共栄を誇ってきたトルコ人の寛容さと英知に期待したい。

(了)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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