2024年04月24日( 水 )

4,000億円挑戦企業・九電工~株価高騰の悲喜こもごも(4)

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差別化と挑戦

 官製企業体質から完全に脱皮したといっても過言ではない九電工。19年3月期は、太陽光発電工事の受注減の一方、潤沢な手持工事高により売上高を伸ばすとしている。売上高3,850億円、営業利益380億円、経常利益410億円、最終利益280億円とさらなる過去最高更新を見込む。2020年3月期に掲げた売上高4,000億円突破は目前だ。

 また、2018春闘では、平均2.5%の賃金改善と前年実績を8万円上回る年平均170万円の賞与で労働組合と妥結。退職金で平均200万円を増額した。今年4月から年休取得の促進日を年間で1日増やすなど働き方改革を推進。社員のモチベーションアップを図っている。

 「飛躍」の年と定めた19年3月期、同社は、まず、差別化戦略として、「総合設備工事の技術を生かしトップを目指す」とする。具体的には、あらゆる設備工事のワンストップ施工、設備工事主体のエネルギー施設の建設やリノベーション工事では、建築の代わりに元請施工を実施。省エネを実現する電気と空調衛生工事のノウハウの融合、設備全体の工程管理によるコスト削減および工期短縮、スペースを最大限可能にする配線・配管などニーズに応える品質の高さで勝負をかける。

 九州域外の組織強化にも努め、2008年の東京本社設置以来、12年に関西支店、東北支社、14年に横浜支社、15年に名古屋支社、17年に埼玉支社と順次拡充。また、各地域の地場企業と資本提携も進めており、18年は、三友電設(福島県郡山市)、エルゴテック(神奈川県横浜市)、清和工業(茨城県水戸市)が九電工グループに加わった。

長崎市のMICEをプロデュース

 以上のように、本業である設備工事業を主軸に広範囲の営業展開を進めて行く同社だが、その一方で新たな分野にも踏み込んでいく。その1つが、JR長崎駅西側の約2万m2の敷地に建設される長崎市の交流拠点施設の整備・運営事業である。

 「MICE」とは、企業などが行う会議(Meeting)や報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字をとったもの。施設には、会議場や展示場のほか、宿泊機能なども求められる。

 九電工は、長崎市が17年3月末から実施していた公募で、同社長崎支店を代表企業とする14社の企業グループ(JV)で応募。ほかに応募がなく、学識経験者などから成る選定審査会の審査を得て優先交渉権者に選定された。

 同事業は、「(仮称)長崎市交流拠点施設整備・運営事業」とされ、官設民営のPFI事業として実施される。MICE施設については、九電工グループが設計、建設を行った後、所有権を長崎市に移転。20年の事業期間で、九電工グループが独立採算で施設の運営と維持管理を行う。九電工は、MICE施設の建設と運営、ホテルの建設を担当する予定だ。

 また、MICE施設に併設されるホテルなどの収益施設については、長崎市との定期借地契約で、施設の設計・建設から運営まで九電工グループが独立採算で事業を行う。九電工グループの提案内容は、MICE事業でコンベンションホール2,720m2(平土間・3分割利用可)、イベント・展示ホール3,840m2(平土間・2分割利用可)、会議室を大中小25室・計2,260m2、駐車場300台というもの。提案価格は146億9,955万6,000円。ホテルには、ヒルトン含むインターナショナルブランドホテルを予定している。

 長崎市のMICE施設については市議会で異論が続出。土地の取得を含めて、紛糾した経緯があった。用途をぼかすことで土地は取得したが、同地からほど近い三菱重工幸町工場跡地(7万m2)に、(株)ジャパネットホールディングスが、サッカーJ1 V・ファーレン長崎のホームスタジアム、オフィスビル、ホテルなどを建設することが決定。長崎市のMICE施設の経済効果に対する疑問の声が再燃した。

 九電工グループが優先交渉権者に決定したのは昨年11月だが、施設の建設費など関連費用71億円が市議会の承認を得たのは今年6月26日の本会議。市が募集要項で計画していた事業契約締結日(18年6月)にギリギリ間に合った。

 同施設は2021年11月の開業予定。市民からは期待だけでなく厳しい視線も向けられている長崎市のMICE施設事業で、九電工がどのようなプロデュースを行うのか、同社の今後を占う試金石として注目したい。

(了)

<COMPANY INFORMATION>
代 表:西村 松次ほか2名
所在地:福岡市南区那の川1-23-35
設 立:1944年12月
資本金:125億5,506万円
売上高:(18/3連結)3,608億7,200万円

 

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